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大病院の院長代理が「毎日クラシックを聴く」理由

小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行/昭和音楽大学客員教授)

2021年05月31日 公開 2024年12月16日 更新

 

こだわるべきは音量

「どう聴くか」はとくにないと言いましたが、強いていうなら1つだけこだわってほしいことがあります。それが、音量です。

何気なく流して聴くには、決して大きな音ではなく、低音がふくよかに心地よく耳に響き、メロディーが自然に聞き取れる大きさが良いでしょう。それは、40〜60デシベル程度です(よく、一般的な会話が60デシベル、静かな図書館での音の大きさが40デシベルといわれています)。

50デシベルを超えると、やや曲を意識するようになり、30デシベルを下回ると聞き取れず、聴こうとするストレスが発生します。

音響システムのひとつに「イコライザー」というものがあります。特定の周波数の音質を補正することのできる機器です。これをぜひ「クラシック」に合わせて聴いてください。スマートフォンでも設定することができます。

イコライザーを「クラシック」に合わせてみても、いまひとつピンとこなかったときには、中音域をやや下げ、低音域と高音域をほんの少し上げてみるといいでしょう。

クラシック音楽を聴くことで、副交感神経がほどよく刺激されて血流がよくなるとともに、大脳辺縁系が刺激され、「いいな」と感じればドーパミンやオキシトシン、セロトニン、βエンドルフィンなどの幸せホルモンが放出されます。

逆に「なんだか嫌だな」と感じればアドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが放出されます。「病は気から」というのは、このことなのです。

先ほど「外界のノイズをシャットアウトする必要はない」と述べましたが、セラピーとしてしっかり聴きたいという場合は、まわりの映像や情景などに惑わされないよう、目を閉じて、ただじっと音楽に耳を傾けることをおすすめします。そのまま眠ってしまってもいいでしょう。

大きめの耳をすっぽり覆うヘッドホンで聴くことは、生理学的によい音刺激になるという意味でも、外界と遮断して集中できるという意味でも、良いといわれています。心と体に疲れを感じているときには、少し部屋を暗くして、目を閉じて、ただ音楽を聴くだけの時間をつくってみてください。

 

交感神経への刺激にはベートーヴェンを

自律神経は、交感神経系と副交感神経系という反対方向に身体を調整する2種類の神経がうまくバランスを取りながら働くことで、全身の状態をコントロールしています。

私たちの体には「サーカディアンリズム(概日リズム)」といって日内変動があり、自律神経は、日中は交感神経が優位に、夕方以降は副交感神経が優位になります。

つまり日中は、交感神経への刺激をある程度、高める必要があるのです。ほどよく感情を揺さぶられるような時間があるほうが好ましいといえます。音楽でいえば、急なフォルテや急な速度の変化などです。

テンポが速くなったり遅くなったり、音量が大きくなったり小さくなったりといった変化は、確実に交感神経への刺激になります。そういう意味で、いちばんいいクラシック音楽は、ベートーヴェンでしょう。

ですから、私はモーツァルトやハイドン、またはバロック音楽などと、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、あるいはドビュッシーやラヴェルのようなフランス音楽を、自分の気分やそのときの場面に応じて聴き分けています。

モーツァルトの一定の音楽は、副交感神経である迷走神経への穏やかな刺激であり、ベートーヴェンの音楽は迷走神経への刺激ばかりではなく、交感神経への刺激もたっぷりと含んでいます。そして、印象派絵画のような色彩の多様性などを求めるときには、おしゃれなフランス音楽がおすすめです。

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