「面倒だけど、やらなければならないこと」とストレスなく付き合う“習慣”
2020年11月09日 公開 2024年12月16日 更新
仕事の現場では、仕事をいっこうに覚えてくれないことを嘆く声は少なくない。丁寧に教えているつもりなのに…。
教育工学の専門家である向後千春教授は、こういう場面で「教えられる側のやる気を起こさせていない」教える側の問題の可能性を指摘する。そしてそのやる気を引き出すための技術があるという。
本稿では、向後氏の著作『世界一わかりやすい 教える技術』より、人のやる気を司る「意志力」のメカニズムについて解説した一節を紹介する。
※本稿は向後千春著『世界一わかりやすい 教える技術』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。
「やる気」は使えば減っていく
あなたは面倒なことだけど、やらなければいけないことをするときにどうしますか。
「えいっ!」と自分に号令をかけて「やる気」を出す!?
そうですね。面倒なことであればあるほど自分のやる気を奮い立たせる必要があります。あるいは、やらなければいけないことから逃げようとして、別のことをすることを「我慢」する必要があります。
こうした「やる気」や「我慢」は自分の行動をコントロールするために必要です。ここでは「意志力」という名前をつけておきましょう。まさに意志の力です。意志力によって私たちは自分の行動をコントロールしているのです。
さて、この意志力は目に見えません。しかし、使えば減るものだということが心理学の研究によって明らかになっています。意志力は筋肉と似ていて、使うと疲れるのです。
意志力は使うと次第に減っていきます。しかし、睡眠をとると回復します。ですから、私たちは朝起きたときに、意志力が満タンの状態になっています。そのあと、さまざまな活動をすると意志力はだんだんと減っていきます。
何かを決心するたびに、また何かを我慢するたびに少しずつ減っていきます。そして夜寝る前が一番意志力が減った状態になります。このときにお菓子を食べ始めたり、お酒を飲んだり、ゲームを始めたりすると止まらなくなりますね。それは「もうやめよう」という意志力がほとんどなくなっているからです。
これからわかることは、意志力はそうしばしば使うことはできないということです。やる気さえ出せば、どんな困難なことでも乗り越えられると信じることは自由です。
しかし、現実には使える意志力には限界があるのです。
意志力を節約する方法
意志力は筋肉と同じように、使えば疲れ、限界があることがわかりました。ですから、いざというときのために大切に使わなければなりません。
いつでも「やるぞ!頑張ろう」と言っている人は掛け声ばかりで、実行がともなっていません。なお悪いことに、掛け声をかけるとなんとなくやったような気になってしまうのです。それでますます行動できなくなってしまいます。
では、どうすればいいでしょうか? それは、なるべく意志力を使わなくても行動できるように自分をトレーニングすることです。具体的には、やるべきことを習慣にしてしまうことです。これを「行動の習慣化」と呼びましょう。
習慣化するとどうなるでしょうか。意志力を減らさずにやるべき行動ができるようになります。「よし、頑張ろう」と言わなくても、自動的に行動することができるようになります。それが習慣化ということです。
習慣化すると「やろうかな、それともあとにしようかな」と考える必要がなくなります。そうなると自分のエネルギーすべてをやるべきことに注ぐことができます。
「どうしようかな」と迷っている間は、時間が無駄になるばかりか、意志力も同時にすり減らしています。結果、手をつけられなくなってしまいます。
ですから、やるべきことは習慣化してしまえばいいのです。とはいっても、それが難しいのですね。習慣になってしまえばいいのですが、習慣になるまでが大変なのです。それが、自分をトレーニングするということです。
何かやるべきことを習慣化するためには、それが習慣になるまでに少しの意志力が必要です。意志力を無駄にせずに、習慣化するために使いましょう。
次に、その具体的な方法を考えていきましょう。