一時“草原化”しかけたことも? 教養として知りたい「鳥取砂丘」の成り立ち
2021年05月31日 公開 2024年12月16日 更新
鳥取砂丘(2020年、岸晃宏撮影)。海岸沿いは、コウボウムギの優占する植物群落(ケカモノハシ、メヒシバなども交じる)に覆われている。
2022年から、高校で地理が必修になる。日本人なら知っておきたい、日本の地理の教養を一つ紹介したい。
鳥取砂丘は、知っての通り日本の代表的な海岸砂丘だ。1955年には国の天然記念物にも指定されたが、この砂丘はいかにして形成されたのか。
※本稿は、水野一晴著『世界と日本の地理の謎を解く』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
石英からなる大量の白砂が堆積
日本で砂丘といえば、鳥取砂丘が代表的だ。鳥取砂丘は日本を代表する海岸砂丘の1つである。1955年には国の天然記念物に指定されている。それでは、鳥取砂丘はどのように形成されていったのであろうか?
中国山地に分布する花崗岩(かこうがん)が長年の間に風化して真砂(まさ)となり、その砂が千代川(せんだいがわ)によって下流に運ばれ、おもに石英からなる大量の白砂が日本海まで運ばれた。
一度沖合まで流れ出した砂は、沿岸流によって海岸にもたらされ、その砂が主に北西の風によって内陸に吹き飛ばされて堆積していき、砂丘が形成されていったのである。
かつて鳥取地方は内湾(奥行きのある湾)だったのが、大規模な砂州(さす)(入江の一方の岸から対岸に届きそうに伸びている州)の発達により、潟湖が形成された時代があったようだ。
砂州を形成した砂粒の中には細砂~中砂が多く含まれ、飛砂量が増加した。幾度となく訪れた氷河性の海水準変動(陸地に対する海面の高さの変動)によって、あるときは砂丘は海岸侵食を受け、あるときには多量の砂が付加されて成長し、縮小-拡大を繰り返して鳥取砂丘は形成されていった(小玉 2010)。
一時は外来種により草原化していたが…
鳥取砂丘に出現する砂丘植物はすべて多年生で、単子葉植物のコウボウムギ、コウボウシバ、オニシバ、ビロードテンツキ、ハマニンニク、ケカモノハシ、双子葉植物のネコノシタ、ハマベノギク、ハマニガナ、カワラヨモギ、ハマボウフウ、ハマヒルガオ、ウンラン、ハマウツボの草本類、そしてハマゴウ、ハイネズの木本植物で、全部でわずかに16種類である。
しかし、近年、外来植物の侵入による砂丘の草原化が問題になっている。
コウボウムギは、砂の移動や堆砂にもっともすぐれた適応形態である地下茎と匍匐茎(地面を這うつる状の茎)をもち、適度な堆砂があれば、むしろ発達するため、砂丘の健全度を測るバロメーターになっている。
日本の砂丘は乾燥地帯の砂丘と異なり、湿潤な環境にある。風の力で砂が飛ばされ、砂丘が移動するため、植物は定着しにくく、砂で覆われた砂丘が成立している。しかし、移動が止まれば植物に覆われていき、砂丘は固定され、砂丘景観は失われていく。
非海浜植物(内陸植物・外来種植物)が優占する群落は、1967年にはほとんど見られなかったが、1979年になると砂丘西側にメヒシバが出現し、1991年には風あたりの強い第二砂丘列の尾根以外の地域でコマツヨイグサやカワラヨモギなどの広大な群落が広がり(永松 2014)、鳥取砂丘の草原化が最も顕著になった。
これを受けて、組織的な除草活動が1991年から行われるようになり、鳥取砂丘内の植物分布面積は現在まで一定水準に抑え込まれている。2020年にはハマベノギクやウンランの分布はきわめて限定的だった(岸 2021)。
【参考文献】
小玉芳敬(2020):「鳥取砂丘の成り立ち」『パークガイド 鳥取砂丘 山陰海岸国立公園』自然公園財団、25-27
永松大(2014):「鳥取砂丘における最近60年間の海浜植生変化と人為インパクト」『景観生態学』、19、15-24
岸晃宏(2021):「鳥取砂丘における植生と人為的活動」京都大学文学部卒業論文