良質な睡眠をとるには「何を食べるか」ということも重要です。スリープトレーナーのヒラノマリさんは、特に「起床後1時間以内の朝食」は大切だと語ります。書籍『世界のエリートが実践! 人生を変える睡眠術』より、睡眠に影響を与える食事について解説します。
※本稿は、ヒラノマリ著『世界のエリートが実践! 人生を変える睡眠術』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
起床後1時間以内の朝食で胃腸を目覚めさせる
睡眠と言うと、「夜の過ごし方だけ気をつければいい」みたいに思われがちです。しかし、トリプトファンが睡眠ホルモンのメラトニンに進化するには、約15時間かかるといわれているため、寝る時間から逆算して15時間前の過ごし方が大事なのです。
●質のいい睡眠の決め手は朝の行動
15時間前というと、やはり朝。つまり、朝の行動がその日の夜の睡眠を決めていると言っていいのです。ここで、「朝食のとり方」も非常に大切です。
まず、どんなに忙しくても、朝食はできるだけとってください。食べる時間も重要です。できれば朝起きて1時間以内に食べましょう。早めに出社してデスクで朝食をとっているなら、出社前に朝食をとるようにしましょう。なぜなら、朝食をとる時間が体内時計に影響するからです。
かつては、「体内時計は脳にしかない」と言われていました。でも、実は体のいたるところ、胃腸も含め、心臓、肝臓、腎臓など、それぞれの臓器に体内時計があるとわかったのです。
これは2017年にノーベル生理学・医学賞をとった研究内容です。また別の研究では「光を浴びると脳の体内時計は動くけれど、胃腸の体内時計は動かない」といったこともわかりました。同時に、人間にとって、それぞれの体内時計をちゃんと動かす必要があることもわかっています。つまり、胃腸の体内時計を動かすには、胃腸を動かすことが必要なのです。
ですから、胃腸の体内時計をリセットする意味で、起きて1時間以内に朝食をとることを、ぜひ習慣づけましょう。
朝のタンパク質と糖質で集中できる体を作る
では、睡眠の質を高める朝食のメニューをご紹介します。
ポイントは前述のように、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料となるタンパク質を中心に、糖質その他をバランスよく取り入れることです。といっても、簡単なもので十分。朝から和定食なんて、頑張る必要はありません。
●卵+ 米かパンに野菜を添えて
私が忙しい会社員だったときは、ゆで卵や温泉卵を作り置きしておき、ごはんと一緒に食べてから出社していました。卵かけごはんでも、味噌汁の残りに卵を落としたものでもかまいません。「卵1個(タンパク質)と米、またはパン(糖質)、プラス野菜があればなおいい」くらいの感覚でメニューを組み立ててください。
タンパク質として取り入れるのは、卵のほかには納豆もおすすめです。朝はなるべく調理のいらないものがラクなので、私は卵や納豆をおすすめしていますが、もちろん、夕飯の残りや作り置きの肉や魚があればそれもOKです。
●「スムージーだけ」「ヨーグルトだけ」はNG
最近は「朝はスムージーだけ」という人も少なくないですよね。でも野菜や果物で作るスムージーでは、タンパク質がほとんどとれませんし、胃腸が動きにくいという問題があります。胃腸をちゃんと動かすには固形物を食べるのが望ましいのです。
「今朝は時間がないからヨーグルトですませたい」というときも、グラノーラを少し加えるなどの工夫をしてください。
忙しい朝の強い味方といえば、バナナです。というのも、トリプトファンがメラトニンに進化をするためには、ビタミンB6、葉酸、マグネシウムなど、さまざまな栄養素が必要となるのですが、バナナには、ビタミンD以外の睡眠に必要な栄養素がほとんど入っていて、オールマイティーな食材なのです。忙しくてどうしても朝食をとるのが無理な場合は、バナナを1本だけでも食べてから仕事に出かけてください。
同じバナナでも、スムージーやジュースにしてしまうと、咀嚼がなく、胃腸が動きにくいという欠点があるので、やはりここでもバナナそのものが理想です。
●糖質が足りないと不機嫌になりがち
コンビニでタンパク源を調達するなら、サラダチキンもいいですね。ただ、必ずおにぎりやパンなども一緒に食べてください。
これは私の会社員時代の体験ですが、定期的に集中してダイエットしている上司がいて、ダイエット期間にサラダチキンしか食べないという食生活をしていました。
その上司が、糖質が足りないために幸せホルモンのセロトニンが分泌されず、やたらとまわりに当たり散らして、迷惑をかけていたのです。
以上は少し極端な例かもしれませんが、セロトニンが足りないとイライラしたり落ち込んだりしやすくなるのは確かです。これでは、起きている間の生活の質も下がってしまいますね。
●どうしても時間がなければガムを噛む
もうひとつ、「噛む」という行為自体も、セロトニンの分泌に大きな役割を果たしているため、とても大切です。
前述のスムージーやヨーグルト、またプロテインなども、咀嚼がないという点でも朝食にふさわしいと言えません。何を食べる場合も、しっかり噛むことを意識してほしいです。
時間がなければ、せめてガムを噛むだけでもかまいません。それがリズム運動になるので、セロトニンの分泌に役立ちます。高いパフォーマンスや良好な人間関係を保つためにも、「朝食は必ずタンパク質と糖質をセットでとる」、そして「よく噛んで食べる」という鉄則を守ってください。
寝不足の日、夕食は何を食べればいい?
夕食は睡眠のお悩み別に食べるべきものが変わります。
たとえば、残業が続いていて、夜型の生活リズムを改善したい方は、夕食で納豆や豆腐、豆乳などの大豆製品をとるのがおすすめです。
というのも、大豆製品に多く含まれるアミノ酸である「L-セリン」を入眠前に摂取すると、夜間のメラトニンを分泌するリズムが前進することが研究でわかっているからです。
メラトニンを分泌するリズムが前進するということは、眠くなる時間を早め、体内時計を朝型にしやすくなるということです。
逆に加齢によって、朝早く起きすぎてしまうといった場合は、夕食にしじみの味噌汁を取り入れることをおすすめします。しじみに多く含まれるオルニチンは、体内時計を後ろにずらし、睡眠からの覚醒も後ろにずらす効果があります。
実際に中高年の健常者に1週間、400mgのオルニチンを就寝前に飲んでもらい、メラトニンの分泌量を測定した研究では、そうでないときと比べてメラトニンの分泌リズムが1時間程度遅れることがわかっています。
ただし、夜型の人が、オルニチンを夜に摂取すると、さらに体内時計が夜型になってしまう可能性があるので、注意が必要です。コンビニなどでもインスタントのしじみの味噌汁が手軽に手に入るので、朝早く起きすぎてしまう方は試してみてもいいかもしれません。