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発達特性のある人が「円滑なコミュニケーション」を図るための4つのポイント

中村郁(声優)

2024年12月18日 公開 2024年12月18日 更新

発達特性のある人が「円滑なコミュニケーション」を図るための4つのポイント

ADHDやASDといった発達特性を持ち、人間関係に苦労している人は少なくないでしょう。発達障害当事者である中村郁さんは、仕事の上でもプライベートでも円滑なコミュニケーションを図るために心掛けていることがあるといいます。その中から4つのポイントについて、書籍『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』より紹介します。

※本稿は、中村郁著『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。   

 

一番立場の弱い人に寄り添う

仕事をする上で私が最も大切にしていること。それは、その場にいる一番立場の弱い人に寄り添うことです。仕事関係で、人が何人か集まると必ず上下関係が生じます。私が一番年下、立場も下のときはそれでいいのですが、もし自分よりも年下の人や立場が弱い人がいるときは、私はその人の心に最も寄り添うことにしています。

その場にいる一番立場の弱い人に寄り添うのは、私自身がいじめられた経験があり、発達障害ゆえに人とうまくコミュニケーションが取れず、辛い思いをしたことがあるからです。

新人の頃、周りからきつく当たられ、涙した出来事がありました。同調圧力からか、その場に居合わせていた親しい友人さえ、声を上げてくれることはなく、私は孤立しました。

しかし、そんなときでも寄り添ってくれた人、守ってくださった人がいました。そのことは、ずっと私の記憶から消えることはありません。その人のためなら何でもしたい。20年以上経った今でも、感謝の気持ちを忘れることはありません。

私は指名でお仕事をいただくことが多いのですが、今、私を指名してくださるディレクターさんは、以前、先輩からめちゃくちゃに怒られていた当時ADだった人たちです。

ある仕事のオファーをいただいたとき、「僕が一人前になったら、中村さんにナレーションをお願いしようと思っていたんです! やっと夢が叶いました」と、伝えてくれた言葉に、私は涙が出そうになりました。この人と仕事がしたい。そう思ってもらえていたことを知り、本当に嬉しかった。

仕事で最も大切なのは人間関係です。たとえ表面上のコミュニケーションがうまくても、利害ばかりを求めて上にはへいこら、下には偉そうにする人のところからは、仕事や人は去っていきます。

たくさん傷ついてきた私たちだからこそ、弱者の私たちだからこそ、傷ついている人、弱い人の気持ちに気づくことができるはずです。優しさを広げていきましょう。それはいつかきっと、あなたのもとに返ってきます。

 

「知らない」と言える勇気を持とう

私たち発達障害を持つ人が絶対にやってはいけないこと。それは、知ったかぶりをすることです。

私は、人との日常会話において、「それ知らないな」と思うことがたくさんあります。自分が興味のあること以外の情報を受け止める力が弱いのです。従って、世間の一般常識があまりありません。適当に話を合わせて知ったかぶりをしたこともありましたが、大抵どこかでそれはバレて、余計に恥ずかしい想いをすることになりました。

ですので、私は会話の中で知らないこと、わからないことが出てきたら、「すみません、知らないので教えてください」と素直に伝えるようにしています。

当然、「そんなことも知らないの?」と言われることも多く、恥ずかしいのは恥ずかしいのですが、早い段階でお伝えすると、大抵の人は親切に教えてくれます。ときには笑いながら、呆れながら、説明してくれます。

プライベートの日常会話ならいざ知らず、仕事において知ったかぶりをすると、取り返しのつかない大きなミスを犯してしまうことに繋がりかねません。

知らないのに知っているふり、わからないのにわかったふりをして仕事を引き受けてしまうと、その後、自分で自分の首を絞めることになります。評価を下げたくないから知ったかぶりをしてしまう。しかし、知ったかぶりをした結果、待ち受けているのは大事故です。

知らない、と伝えたらがっかりされるかもしれませんが、知ったかぶりをして大きなミスをしてしまうと、あなたの評価は地の底へ落ちてしまいます。

私たちは人から責められたり、叱られたりする経験が多いので、自分を守ろうとしてしまうことがあります。しかし、絶対に嘘をついてはいけません。自分を守るためについてしまった小さな嘘は、最後に取り返しのつかない大事(おおごと)になります。

「知らない」と言える勇気を持ちましょう。素直なあなたに、周りの人は手を差し伸べてくれます。自分を大きく見せる人には、誰も手を貸してくれません。知らないことは、今この瞬間から知っていけばいいのです。

 

知識はひけらかさず、尋ねよう

私は今まで、インタビューやトークショーのお仕事もしてきました。その際ゲストに対して、やってはいけないことがあります。それは、自分の知識をひけらかすことです。

例えば、釣りのプロがゲストでやってきて、「この季節は、小さなかわいいイカがたくさん釣れるんですよ」と話してくださったときに、「知っています! 9月から11月の終わりくらいまでは、コロッケサイズと言われるイカがたくさん釣れるんですよね!」と、私が意気揚々と重ねたら、ゲストはどう感じるでしょうか。

さらに追い討ちをかけるように、「イカ釣りは大好きで昔からずっとやってるんですよ! 一晩で50杯釣り上げたこともあります!」と、こんなことを言ってしまったら、相手はどんどん話す気力をなくしていくでしょう。これは、相手の会話を奪う行為だからです。

日常会話においても、これと同じ現象が起きている場面によく出会います。

誰かが何かについて話題を出したとき、尋ねられてもいないのに自分の知っていることをどんどんどんどん話し続ける人。あなたの周りにもいませんか?

発達障害を持つ私たちは、油断すると興味のあることについてマシンガンのように話しすぎてしまう傾向があるので、くれぐれも気をつけてほしいのです。

人というのは話を聞いてもらいたい生き物です。人の話を奪うことは、絶対にしてはいけません。たとえ知識があったとしても、その知識は心の中に大切にしまっておきましょう。尋ねられたときにはじめて、発言すればいいのです。

また、知識があるのなら、あなたはその場にいる他の人より、話している相手に素敵な質問を投げかけることができるはずです。

好きなものが同じだった場合。自分の話に持っていくのではなく、敏腕インタビュアーになった気分で、

「私もそれ、大好きです。○○さんは、なぜ、それを好きになったんですか?」

こんな風に尋ねて、相手にたくさん話してもらいましょう。相手はきっととても嬉しい気持ちになるはずです。自分が知っていることや、濃すぎる知識を持っているものほど、扱いにはくれぐれもご注意を。

 

「負ける」という手段を選べ

私は、ナレーション業界に入ってすぐ、「仕事をする上で、この人はできると思われることが大切だ。たとえ声の仕事であっても、見た目は重要だよ」と教えられました。

清潔感はもちろんですが、相手から、「この人は仕事ができそう」と思われることは、いい印象からスタートすることができるので、その後の仕事運びが楽になります。

ですから、ジャケットを羽織ってみたり、ヒールを履いてみたりして、できる人を演じようと心がけたのですが、どうしても仕事ができなさそうな人にしか見えません。

キャリア20年を超えた今でも、不安そうな顔をされることが多く、初対面のディレクターさんには、「大丈夫ー? 緊張してるんじゃないのー? リラックス、リラックスー!」などと言われる始末です。私が、挙動不審なのが理由なので仕方ないのですが、さすがに、「まったく緊張などしてませんけど」と言い返したくなります。

しかし、ここで絶対に反発してはいけません。「負ける」という、手段を選ぶのです。

「ははは。そうですねー、リラックスしてがんばります」と、一旦相手に主導権を握らせます。そうすると相手は気分よく、優しくディレクションしてくれます。

私の反撃はここからです。ナレーションの技術で、証明するのです。もちろん緊張などしてませんから、声も震えませんし、相手の要望にどんどん堂々と応えていくのです。

相手の予想を超えるいいナレーションを提供できたとき、それは私の勝利です。私が心の中でガッツポーズをする瞬間です。この瞬間がたまらないのです。相手を言葉で打ち負かす必要などなく、一旦「負ける」を選ぶことで、大反撃に出ることができます。

相手に失礼なことを言われたときも、仕事の場では「負けて」あげましょう。反撃しても、相手の気分を損ねるだけで逆効果だからです。

「そうですね。ごもっともです」を繰り返しながら、自分の思う方向に相手を操るほうが、結果、相手を自分の手の内に引きずり込むことができます。

相手からのマウントには、負けてやりましょう。なめられているくらいが丁度いいのです。そのほうが相手は油断します。スカッと気持ちのいい逆転勝利が待っていますよ。

 

著者紹介

中村郁 (なかむら・いく)

ナレーター,声優

ナレーター、声優(株式会社キャラ所属)。注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)併存の診断を受けた発達障害当事者。発達障害の当事者会「ぐちゃぐちゃ頭の活かし方」主催。  幼い頃より、過剰に集中しすぎてしまう「過集中」に悩まされる。それでいて注意力散漫で、毎日忘れ物やケアレスミスだらけ。人とのコミュニケーションも苦手で、常に眉間にシワを寄せた辛い子供時代を過ごす。  

学生時代は、ADHD、ASDの特性が災いし、数々のアルバイトをクビになり、あるバイト先の店長からは「社会不適合者」の烙印を押される。「自分にできる仕事などない」と自暴自棄になって、就職活動することを放棄するが、偶然が重なりナレーター事務所に所属することに。マイクの前でひたすら喋るナレーターの業務は、究極のシングルタスク。偶然にも適職に出会うこととなる。

もう絶対にクビになりたくない、という強い想いから、発達障害を持ちながらも大きなミスをしないための数々のライフハックを生み出し、仕事に取り組む。以後、22年間、産休以外で一度も仕事を休んだことがない。  

現在は、全国ネットの番組のナレーションやCMナレーションを多数務めながら、発達障害についての理解を世の中に広めるため、発達障害当事者として、執筆や全国各地で講演活動も精力的に行っている。著書に『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』(秀和システム)がある。 

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