休校明けの対応で浮き彫りになった「教科書“を”教える」学校教育
2021年06月01日 公開 2021年07月09日 更新
いま、日本の教育が危ない。コロナ禍の全国一斉休校等の「教育の危機」に際し、主体的に動く学校もあったが、多くは「受け身で指示待ち」の対応に終始し、今日まで変化に対応できずにいる。それは「日本の学校が"学習する組織"になっていないからだ」と、全国の学校現場の声を聴き続けてきた教育研究家の妹尾昌俊氏は語る。
そこで今回は、妹尾氏の著書『教師と学校の失敗学』(PHP新書)から、「休校明けの学校の対応にみる、教育の構造的問題」について一部抜粋・編集の上、紹介する。
「時間の埋め合わせ」は生徒のためになったのか
コロナ禍では「プリント爆弾」(大量の宿題プリントや紙のドリルを配って、「家庭でやっておいてください」というもの)など、休校中の学校の対応の問題が叫ばれました。
しかし、学校再開後にも数多くの問題が噴出しました。大きな問題のひとつは、休校中に授業が進まなかったことの反動か、再開後は授業を詰め込むようになった学校もたくさんあったことです。
文科省が各教育委員会に調査したところ、9割以上の自治体で夏休みをはじめとする長期休業の短縮を行い、補習の実施も小中学校を所掌する自治体の約2割、高校を所掌する自治体の半数近く(約48%)に上りました(2020年6月23日時点)。
土曜授業の活用も小学校の約15%、中学校の約17%、高校の約32%に上りました(いずれも学校の割合ではなく、回答した教育委員会の割合)。
「2カ月も3カ月も休校が続いたんだから、学習の遅れを取り戻すためには補習や土曜授業も必要だ」。そう思われる方も多いかもしれません。たしかにそれは一理ありますが、安易に時間を増やそうとする考え方には大きな問題が潜んでいます。
「詰め込み学習」で学習意欲は低下
ひとつは、子どもたちへの影響です。土曜授業を例に取れば、休みと思っていた日が授業になると意欲が落ちる子もいます。
あるいは疲れがたまって、翌週以降(とりわけ月曜)の授業への集中力が落ちる子も多いと、教員からよく聞きます。土曜授業の効果がいかほどなのか、よく検証する必要があります。
小学生なのか、中高校生なのか等によってもちがってくる話ではありますが、教育委員会等が思っているほど、土曜授業の学習上の効果は高くないかもしれません。
もうひとつの問題は、ただでさえ忙しい教員の負担がさらに増えることです。私が2020年6月に実施した教員向けのアンケートでは、土曜授業を実施する場合に心配なことを尋ねました。この調査はもともと問題意識のある人が回答しやすいので、いくぶん割り引いて考える必要はあります。
しかし教員の多くの感触としては土曜授業を実施することで、児童生徒の学習意欲が落ちることや、子どもたちの自由な時間が阻害される影響を心配しています。校種(小中高)ごとにも分析しましたが大きな差はありませんでした。
さらに「教員の負担が増える」について「おおいにそう思う」と答えた教員の割合は約85%にも上っています。振替(代わりの休日)がきちんと取れていれば、まだマシだと思いますが、そうはいかないケースもあるので負担感は一層重いのです。なかには、こんな意見もありました。
「私たちはロボットではない。子どもたちは疲れはてている。学力をつけるなんて状態ではない。今回のコロナ対策で、来年の3月までは隔週土曜日授業の予定。弁当持ちで5時間授業。
試算したら、標準時数(引用者注:学習指導要領で必要とされている年間の授業時間数)が確保できてしまった。学習指導要領に子どもを合わせるのではなくて、子どもたちの声を聞きながら進めていきたいと考えている。(公立小学校教員)」
次のページ
授業の「質より量」を優先する教育委員会と教師たち