中野信子(なかの・のぶこ)氏は、作家であり、脳科学者と医学博士の肩書を持つ。現在は脳や心理学の研究や執筆活動を精力的に行っている。
科学の視点から人間社会の問題を分かりやすく読み解く語り口で、テレビのコメンテーターとしても活躍しています。その視点から、『毒親〜毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ社)を上梓しました。
本稿では、著者エージェンシー代表で、かつ自身も『花戦さ』などのヒット作品の著者でもある鬼塚忠さんが、中野信子さんに「毒親との付き合い方」を聞きました。
親から愛情を受けられなかった子どもは、その後どうなったか?
(鬼塚)人は多くの様々な問題を抱えています。その問題のなかでも多くは人との関係ですよね。そして、その人との関係の中でも基本にあるのが親子関係です。
最近、共働きが主流となり、もしかすると、子どもに対する愛情が足りていないかもと危惧する親も多いと聞きますがいかがでしょうか。
(中野)共働きの是非はさておき、親から愛情を受けずに育った子どもがどうなるか、そのことについてお話しますね。愛情を受けられなかった子どもに対する調査を初めて行ったのは、イギリスの精神科医であったジョン・ボウルビィです。
第二次世界大戦後、イタリアの育児院の子どもたちに、体重が増えない、言葉が喋れない、語彙数が増えないなどの発達の遅れが見られ、罹患率、死亡率が高かったことから、WHOがボウルビィに調査を依頼しました。
調査の結果、発達の遅れは、施設の環境や人的要因ではなく、子どもが母親から引き離され、見知らぬ環境に適応できないことによるショックでこうした症状が引き起こされたと考えました。この症状を愛情遮断症候群と名付けました。
(鬼塚)愛情遮断症候群ですか。学術的に言えば難しそうな名前ですが、まあ、親から引き離されれば、歪んで育ちがちというのは、およそ予見できそうですよね。
(中野)そう予見できるかもしれません。でも、話はそれだけではありません。イスラエルにはキブツという、集団で生活をし、基本的に農業を生きる糧とした共産主義的な共同体があるのですが、そこに似たような報告があります。
それは、子どもが親とか特定の大人ではなく、不特定多数の大人により育てられた場合、自分が愛情を示すべき相手が定まらなくなり、やがて感情や情緒の表現をしなくなってしまうというのです。
こうして育った子どもたちは、大人になってからも誰とも密接な関係を作らず、関係を築こうと近づいてくる人に対して逃げようとするそうです。
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子の学力と家庭の経済環境の関係から考える「心の環境」