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東京五輪とフランス革命

2021年07月22日 公開

佐藤健志(評論家、作家)

佐藤健志

今から232年前、1789年7月14日に勃発したフランス革命は、高邁な理想を掲げる一方、社会を底なしの混乱に陥れた。
「自由・平等・博愛」の名のもと、凄惨な流血が繰り返され、ついにはナポレオンの独裁によって終結したのである。

イギリスの政治家・文人エドマンド・バークは、著書『フランス革命の省察』で、この革命の本質的な問題点をいち早く見抜き、痛烈な批判を展開した。
同書の編訳を行い、『[新訳]フランス革命の省察』として刊行した佐藤健志氏によれば、コロナ禍にたいする政府の対応は、五輪開催への意欲まで含め、フランス革命政府の振る舞いをありありと思わせるものだという。
その真意とは・・・

 

堂々めぐりと自滅的混乱

『フランス革命の省察』は、革命が初期段階にあった1790年に刊行された。しかるに著者エドマンド・バークは、革命の具体的な経緯を取り上げつつ、その背後、ないし核心にある理念的な本質を見事にとらえ、痛烈な批判を展開する。 

フランス革命は、以後のあらゆる急進的社会改革に大きな影響を与えたので、バークの批判は、それらの改革にもそのまま当てはまることになろう。

歴史的事件としてのフランス革命を知ろうとする者にとり、この本が重要な意義を持つことは言うまでもない。だが『フランス革命の省察』は、「社会の問題はどうやって解決されるべきか」という点に関心を持つ者すべてに多大な洞察を与える。
本質的なレベルにおいて、フランス革命は現在も終わっておらず、そのため革命をめぐる省察も生きつづけるのである。

なぜ、終わっていないと言えるのか。

革命の原動力となった「人間は理性的能力を駆使することで、従来の社会のあり方を全面的にくつがえし、新しい理想的な社会を建設できるはずだ」という信念が、いまも生き続けているためである。

ただし人間はそこまで賢くないという点も変わっていないため、現実の壁にぶつかって自滅的混乱に陥る堂々めぐりが繰り返されるのだ。

信念は理屈を超えたものなので、改革が失敗に終わろうと、それだけでなくなりはしない。否、「失敗したのは改革が十分に徹底されなかったからだ」とばかり、いっそう急進的になることまで起きる。近年のわが国でおなじみの光景だが、フランス革命でもよく似た現象が見られた。

バークの言葉を引用しよう。

【いくら失敗を繰り返しても、革命派はさっぱり懲(こ)りない。これまでに発行したアッシニア(注=フランス革命に際して発行された通貨)の価値が市場で落ちた。さあどうする? 新しいアッシニアの発行だ。
頑迷な石頭が、自分の間違いをどうしても認めない。治療法は? アッシニアを刷るんだよ!】
(『[新訳]フランス革命の省察』文庫版、347ページ)

 

コロナ五輪という観念論の暴走

それでも現実が思いどおりにならないときは、支離滅裂な振る舞いが公然と展開されることになる。『フランス革命の省察』では、「革命により税収が激減、財政が危機に瀕したことについて『われわれは民衆の税負担を軽減するのに成功した』と自慢する」という例が挙げられた。

ならば、現在のわが国はどうか。ここはやはり、2020年に発生した新型コロナウイルスの流行への対応が挙げられねばならない。

政府は当初、同年夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック大会を意識してか、コロナ対策にさほど積極的ではなかった。大騒ぎしたせいで、開催に悪影響を与えてはまずいという理屈だろう。

けれども3月末、同大会の延期が決まるや、一転して「短期決戦で感染を収束させる」方針に転換、4月には緊急事態宣言を発出した。
ただし5月に入ると、景気があまり落ち込んでもまずいと宣言を解除、いわゆる「経済優先」の方針に再転換する。7月など、感染拡大の様相が見られたにもかかわらず、感染収束後に実施するはずだった経済刺激策「Go To トラベル」を前倒しで実施した。

はたせるかな、下火になったかに見えた感染もぶり返す。2020年夏の第二波こそ、緊急事態宣言なしで乗り切ったものの、冬に第三波が到来したときには、2021年1月、二回目の宣言を発令するハメに陥った。

このときも「1ヶ月程度で事態を収束させる」という旨の短期決戦論が聞かれたものの、実際には1週間もたたないうちに対象地域を拡大せざるをえなくなる。宣言期間も二度にわたって延長され、完全に解除されたのは、2ヶ月半あまりが過ぎた3月21日だった。

おまけに4月25日には、三回目の宣言を早々と発令することに。またもや2週間の短期決戦だなどと謳われたが、例によって対象地域の拡大や期間延長が続き、解除(ただし沖縄を除く)は6月20日までずれこんだ。

7月12日には、四回目の宣言が発令されるにいたる。対象地域はとりあえず東京都のみだが、状況次第では当然、拡大されることになろう。

要するに失敗の繰り返しなのだ。普通に考えれば、とてもオリンピックなど開催できる状況ではない。しかるに政府はさっぱり懲りず、緊急事態宣言下での強行開催に踏み切った。

開会式・閉会式はもとより、圧倒的多数の競技が無観客という、何ともみすぼらしい形になったが、大会組織委員会の橋本聖子会長が、7月8日の記者会見で語ったところによれば、それでも意義があるらしい。
いわく、「この世界が直面するコロナ禍という大きな課題に直面する中においても、開催をすることができるということも一つ大きなレガシーになっていくんだ」。

ふたたび、バークの言葉を引用しよう。

【敗北である。悪あがきの果ての面目丸つぶれ。息は切れ切れで、体力は消耗のきわみ。新たな知恵は何も浮かばず、理想はすべて水泡に帰した。ところが、ここまできても革命派は自信を失っていない。】
(『[新訳] フランス革命の省察』、文庫版364〜365ページ)

【観念論の暴走ともいうべき今回の革命から立ち直り、国が元通りになるまでには、おそらく相当な年月がかかるのではあるまいか。】
(同、197ページ)

2021年の現在も、フランス革命は終わっていない。それはもはや明らかではないだろうか。

※佐藤健志氏による『[新訳]フランス革命の省察』のオンライン読書会が開催されます。詳細はこちらのURLをご覧下さい。
https://pages.keieikagakupub.com/satobc-v1_54-php/

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