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日常の疲れを「ソロ温泉」で癒す...マニアが紹介する“一人で楽しめる名湯5選”

高橋一喜(温泉エッセイスト)

2021年08月17日 公開 2022年02月04日 更新

 

大自然が織りなすダイナミックな造形美が見られる「小安峡温泉」

小安峡温泉
小安峡温泉(秋田県)

人間関係のスイッチをオフにし、ひとり、自由に空白の時間を過ごす。そんなソロ温泉の過ごし方にマッチするのが、市街地から離れてひっそりと佇む一軒宿や、歓楽街のない小さな温泉地である。いわゆる「秘湯」の宿なども該当するだろう。

たとえば、森に囲まれた温泉地は空気が違う。森林浴を楽しみながら湯浴みもできる最高の環境である。また、目の前に海や湖が広がる温泉地であれば、心のもやもやが吹き飛び、爽快な気持ちになれる。いずれも転地効果を最大限に得られる環境といえる。

大自然の中の宿は、都会での生活で疲れをためている人はもちろん、ソロ温泉の初心者から上級者まで幅広くおすすめできる。

自然豊かな環境にある温泉地では、ひとりで周辺を散策するのも楽しい。

たとえば、江戸期から深い山の中で湯けむりをあげる小安峡温泉(秋田県)は、深いV字の渓谷に湧く温泉地である。国道沿いに10軒ほどの温泉宿が並ぶが、都市部から離れているため週末でも静かな環境である。

散策スポットとなっている「大噴湯」は、約60m下の谷底から大地の息吹を感じさせるような熱湯と蒸気が噴出している。

長い年月をかけて岩場を深くえぐりながら流れる力強い清流と、地中深くで激しく活動するマグマがつくりだした景観であるが、大自然が織りなすダイナミックな造形美を目の当たりにすると、自分が抱えている悩みなどちっぽけに感じてしまう。

 

ブナ林に囲まれた環境がすばらしい「温泉」

自然に囲まれた宿は、まわりに温泉街や歓楽街がないので、おのずと温泉につかることに集中できる。ひとりの時間を存分に過ごすには最適な環境である。

周辺に十和田湖や奥入瀬渓流などの観光地がある温泉(青森県)も、大自然に囲まれた一軒宿のひとつ。

大正時代に建てられたという玄関を入ると、昔ながらの畳敷きの帳場。木造の床や柱などはピカピカに磨かれており、長い間大事にされてきたのがわかる。建物そのものがまるで骨董品のように美しく、歴史の深さを物語る。

自慢の温泉は足元湧出泉。湧きたての湯が絶え間なく湯船からあふれ出していくさまを見ているだけで幸せな気持ちになれる。そんな足元湧出泉が敷地内に3つもあるのだからすごい。

ブナ林に囲まれた環境もすばらしい。夏に宿泊した際、宿の敷地内にホタルが乱舞していた。そして、ふと空を見上げると、満天の星。都会ではけっして体験できない光の芸術は、今もまだ強烈にまぶたに焼きついている。

また、宿の周囲には「蔦七沼」と呼ばれる7つの沼が点在し、遊歩道が整備されている。私だけではないと思うが、自然いっぱいの温泉地に来ると、なぜか無性に歩きたくなる。

普段はしない早起きをして、周囲を散歩してまわる。早朝の山や海の空気は、なぜあんなに吸い込みたくなるのだろう。日常の生活に疲れている人ほど、空気のおいしさに感動を覚えるはずだ。もちろん、散歩のあとの温泉も格別である。

 

"グッドデザイン賞"を受賞した「大沢山温泉」

大自然に囲まれた環境だと、宿の設備や充実度がモノを言うことがある。ソロ温泉だと、ほとんどの時間を宿の中で過ごすことになるからだ。そういう宿は料金も高くなる傾向があるが、その分、満足度の高い滞在時間が約束される。

私の経験からいえば、大沢山温泉(新潟県)の旅館「里山十帖」は、料金に見合う満足度であった。

温泉や食などの特集で知られる雑誌『自遊人』の編集長を務める岩佐十良さんが2014年にオープンさせた異色の宿である。もともと古くからこの地にあった温泉宿を買い取って、全面リニューアル。「グッドデザイン賞」を受賞するほど、洗練された空間をもつ宿に生まれ変わった。

まず温泉がすばらしい。露天風呂からは日本百名山である巻機山をはじめ、標高2000メートル級の山々を望む。青空の下に横たわる雄大な山々の景観は、息をのむほどの美しさ。

夜は、露天風呂から満天の星と頭上を横切る天の川。星の多さに度肝を抜かれる。いわゆる絶景温泉である。しかも湯はぬるめなので、長湯にも最適である。

また、豪雪地帯にあるため、冬は一面、白銀の世界である。露天風呂の前には雪の壁がそびえ立ち、湯が落ちる音以外何も聞こえてこない静寂の空間は、ひとりの時間を満喫するには絶好のシチュエーションである。

館内にはオシャレなデザイナーズチェアが並ぶラウンジがあり、酒などを飲みながら過ごせる。ラウンジやライブラリーなど、居心地のよい空間が自分の部屋以外にもあれば、ひとりの時間も楽しい。

なお、食事は、地元の食材が活かされる。夏に訪れたときには、さまざまな種類の茄子がテーブルの上に並んだ。「茄子にも、こんなに種類があるんだ!」と新鮮な驚きがある。新潟は茄子の作付面積日本一で、20を超える種類があるという。

画一化された温泉旅館の料理は記憶に残らないことも多いが、里山十帖はどれも個性的なコンセプトとひと手間が加えられ、思い出として心に刻まれている。

うれしいことにひとり旅も歓迎しており、部屋やラウンジで読書をして過ごしたり、トレッキングやスノーシュー体験などのアクティビティを楽しんだりする人も多いという。

 

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