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ブーム加熱も…個人投資家は「なんちゃってESG投資」にご用心!

北村慶(証券アナリスト)

2021年09月01日 公開 2022年05月25日 更新

 

儲かるとは限らない「ESG投資」

しかし、ESG投資が市場平均に比べてパフォーマンス(運用成績)が良いのか、という点については投資のプロや研究者の間でさまざまな議論あり、十分には証明されていない、というのが実態です。

実は、GPIFの高橋前理事長自身が、雑誌のインタビューで「ESG投資で大いに儲かるという証拠はないが、損はしにくいということは言える」と言う趣旨の発言をされています。

これに対しては「儲からないなら私たちの年金でESG投資をするのは止めて欲しい」という批判も出ましたが、これに対し、GPIFは以下のように説明しています。

――GPIFは、国内上場企業の大多数、主要な海外企業の株式や債券を幅広く保有しており、資本市場を幅広くカバーする「ユニバーサル・オーナー」である。

例えば、環境(E)や社会(S)に負荷をかけて、他社の犠牲の上で短期的に利益を上げる企業がいて、そのために他の企業を含めた経済全般や社会が弱体化してしまうと「ユニバーサル・オーナー」としての投資のリターンは低下してしまう。

また、GPIFは、世代をまたぎ50年、100年単位で国民の年金を運用する「超長期投資家」でもある。資本市場や社会が持続可能であることは、投資の大前提である。

従って、投資にあたっては、持続可能な社会の実現に本業で貢献し安定的に利益を上げる企業を選び、彼らを支援することが超長期投資におけるリターンを底上げすることに繋がる――

これが、GPIFが“儲からないかもしれない“ESG投資を行っている理屈です。

 

個人投資家は「ESG投資」を行うべきか

私たち個人投資家も、世界最大の年金ファンドであるGPIFをはじめとする主要投資家にならって、これらの指標に準拠した投資信託などを購入し、ESG投資を始めるべきなのでしょうか――結論を言えば、現時点で個人投資家がESG投資を行う必要はない、と筆者は考えています。

その第1の理由は、ESG投資が市場平均(例えば、TOPIX)を上回る成績を安定的に上げるかどうかは証明されていないためです。この点は、GPIFの高橋前理事長ご自身が認めていることは、ご説明した通りです。

事実、GPIFがESG投資に割り振っている割合は国内株式への投資の1割程度です。もし、ESG投資がTOPIXなどの市場平均に安定的に勝てるなら、もっと高い比率でESG投資を行うはずです。

筆者は「環境や社会に負荷をかけて他社の犠牲のもとで利益を上げる企業を排除しよう」というGPIFの姿勢を否定するものではありませんが、そうした"企業経営者に警鐘を発し、持続可能なビジネスモデルへ転換することを促す役割"は、数世代にわたる年金運用に責任のあるGPIFなど公的な年金基金に任せておけば良い、と考えています。

2つ目の理由は、「環境や社会にとって良い会社」を的確に選定し、それらの株価に正確に連動する指数が存在しないことです。

GPIFは、さきほど見たように、4つの指標を参照し、複数の視点からESGに優れた会社を選定しようと試みていますが、私たち普通の市民が複数の指数に連動する投資信託に投資することは、手間の点からも投入できる資金の額の観点からも現実的ではありません。

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