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生き方

「マザコン夫と義母の同居圧力」に嘆く妻だけが犠牲者だと言い切れないワケ

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年10月18日 公開 2024年12月16日 更新

「マザコン夫と義母の同居圧力」に嘆く妻だけが犠牲者だと言い切れないワケ

「自分はこんなに被害を受けた」と犠牲者的な発言ばかりする人がいる。手痛い経験から何かを積極的に学ぶ人と、苦しみに閉じ込められてしまう人――その違いはどこにあるのか? 加藤諦三氏に聞いてみた。

※本稿は、加藤諦三著『心の免疫力「先の見えない不安」に立ち向かう』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

義母からの圧力に「自分は犠牲者」と嘆く嫁

義母と揉めている嫁である。現在、妊娠3カ月である。夫は単身赴任で外国にいる。

義母は「自分の家の近くに住んでほしい」と言う。そこで家賃の高い家に住まなくてはならなくなった。

彼女は夫と義母に不満になる。「夫は自分の意見をいわない」と彼女は言う。

保険金受取人も自分ではなく義母になっていると、彼女は不満である。夫は「お母さんの名義のままにさせてほしい」と言う。義母は「嫁に子どもができるまでは母親名義のままにしてほしい」と言う。

彼女の相談は、具体的にいうと「義母との同居の圧力がある」ことである。

今は実際に同居していないのだから、問題は「圧力」である。

「夫はマザコンで、私は犠牲者」と彼女は言う。彼女は、現在の何もまだ起きていない平穏な生活の中にいても、「私は犠牲者」と言う。

義母の方は「息子と嫁に裏切られた」と言う。そして「私は死にたい」という決まり文句が始まる。

息子夫婦と同居していない今の状態で、すでに「どうしてよいか分からない」と、この義母は嘆く。

嫁も義母も、二人ともレジリエンスのない人である。

 

レジリエンスのある人は、自分を犠牲者とは見ない

犠牲者とは、自分はものすごく過酷な体験をして、それを乗り越えられなかったばかりでなく、その痛みと苦しみの中に閉じ込められたと思っている人である。

それは受け身だからである。

常に何かしてもらうことを考えているからである。

この嫁は、受取人が義母になったままの保険金について「私にくれると言ったじゃない」と言う。この言葉に、この女性の心のドライさがある。

「ちょっと待ってくれないかな」と夫は思っただろう。

義母は60歳である。嫁は、自分を安心させてくれない夫の態度に、義母の意思を感じている。

母親から同居したいと言われて「そうしよう」と夫は思った。嫁の方はもちろん反対である。

しかし、結婚前に「将来的には同居してもいいわ」と言ってしまった。もし夫が強引に自分の意思で結婚をしたなら、こうはならなかった。

マザコンの夫は、誰かのリーダーシップがないと結婚までいけない。もし義母がレジリエンスのある人なら「よかった、息子に嫁が来てくれた」となるはずである。ところが、そうはならない。

つまり、この嫁の方から積極的に結婚しようとした。嫁がレジリエンスのある人なら、それを認める。

この嫁が「私の方が彼を一方的に好きであった」と思えば、トラブルの状況は違ってくる。それを認めれば皆の気持ちが違ってくる。

周囲の人を操作して「ようやく結婚できた」と思った時に、この嫁は変わった。

彼女は周囲の人を操作して目的を達成したのだ。いつも人を操作しているこの嫁の方は、夫を好きでも、彼女の心の中にイライラがある。

問題は、彼女のこの感性である。

いつも自分が一番大切にされないと不満である。自分が人を大切にしようという気持ちはない。

この嫁がレジリエンスのある人であれば、どう思うか。「今、外国にいる夫が元気で帰ってきてくれればいい」と思う。そう思えば、周囲の人間関係は違ってくる。

夫は好き嫌いがあまりない。大切にされた時に、その人を好きになる。これがマザコン。

この嫁は、夫の家族をバラバラにする。操作する側に、将来に向けての一貫した意志がないからである。

「この今の人生が、思うようになればよい」というこの嫁は、将来を考えていない。

夫が元気で外国から帰ってくるのを待つ。「もっと、もっと」を望まないで今に感謝をする。そうしたレジリエンスのある人の態度になれば、彼女の人生は拓ける。

なぜ義母は「裏切られた」と言ったか。嫁が結婚前によい顔をしたからである。

この嫁は人を操作する。この嫁は心に葛藤があり、息子はマザコン。二人の間にトラブルが起きるのは当たり前である。

人を操作する人は豹変する。悪徳不動産屋のようなものである。

猫なで声で「お客様に幸せになっていただきたい。それが私の願いです」と言っていた人が、重大なクレームに手のひらを返す。

 

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「受け身の人」の人生はなぜうまくいかないのか

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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