池谷敏郎氏は、自身もひどい腰痛で悩んだ内科の医師。一時は、車椅子が必要だったほどひどかったそうです。外科と内科の違い、その両方に着目して考えたほうがいいことを教えてくれます。
まずは、本人がぎっくり腰だと思っている痛みが、本当にぎっくり腰かどうかを見極めたほうがいいようです。その見分け方から詳しく解説します。
※本稿は、池谷敏郎(著)『腰痛難民』(PHP研究所)から、内容を一部抜粋・編集してお届けします。
"単なるぎっくり腰"と"内臓の病気からくる腰痛"の見分け方
まず、腰痛が急にあらわれた時には、“きっかけ”があったかどうかが肝心です。重いものをもった、腰をひねった、中腰になったなど、きっかけとなった動作がある時には、いわゆるぎっくり腰(急性腰痛症)が考えられます。
とくに、横向きに寝て、膝を曲げて体を少し丸めたり、仰向けに寝て、膝の下にクッションなどを入れて軽く膝を曲げたりしてみてください。「この姿勢だったらラクという姿勢が見つかる」「逆に、腰を動かすと痛みが増す」というような場合は、おそらくぎっくり腰です。
つまり、きっかけがあったかどうかに加えて、「姿勢によって痛みが変化する」ことがもうひとつのポイントです。
ぎっくり腰の原因は、腰椎の関節や椎間板に許容以上の力がかかって捻挫や損傷が起きた、腰を支える筋肉が肉離れを起こした、靭帯が軽い損傷を受けたなど、さまざま。ただし、レントゲンやMRIで画像を撮っても、「これが原因」と言えるようなはっきりとした異常は見つかりません。
発症した直後こそ、身動きがとれないほどの痛みが走りますが、激しい痛みは2、3日で和らぎ、だんだん体を動かせるようになり、1、2週間もすれば自然に治っていきます。そのため、整形外科の先生方がさまざまなメディアで言っているとおり、無理やり医療機関を受診する必要はありません。
ただし、例外があります。骨粗しょう症をもっている人、がんになったことのある人は、背骨の圧迫骨折を起こしている可能性も否定できないので、整形外科にかかったほうがいいでしょう。
また、ぎっくり腰とは逆に、「どんな姿勢をとっても痛みが和らがない」「ラクな姿勢が見つからない」時には、単なるぎっくり腰ではなく、内臓の病気が隠れているかもしれません。
そのほか、コルセットをつけても痛みが和らがない、ラクにならない時、痛み以外の症状を伴う時にも、整形外科以外の病気(あるいは重症な整形外科の病気)の可能性が高くなります。
・ どんな姿勢をとっても痛みが和らがない
・突然痛み出し、痛みが強くなっている
・強く痛む場所が移動している
・血圧の低下を伴う
・ 足のしびれやだるさを伴う、または脚を動かすことができない
・ 血尿が出た、または排尿時に激しい痛みを伴う
・便や尿が漏れる
急にあらわれた腰痛で、このいずれかに当てはまる時には、大動脈解離や大動脈瘤破裂などの血管のトラブルや尿路結石、馬尾症候群など、緊急性をもった病気の可能性があります。迷わず、救急車を呼びましょう。
整形外科と形成外科
腰痛が長引いている時、あるいはいつの間にかはじまってじわじわ痛くなってきた慢性の腰痛はと言うと、まずかかるべき診療科は、やっぱり整形外科です。
改めて説明すると、整形外科とは、主に骨や関節、筋肉を扱う診療科。ケガや病気によって骨や関節、筋肉などの機能が損なわれた時に、それらの機能の改善をめざした治療を行ないます。
ちなみに、似た名前の診療科に「形成外科」があります。よく混同されるのですが、形成外科は、ケガや床ずれでできた傷を治す、やけどを治す、がんの手術で失った組織を再建するなど、ケガや病気、手術などで損なわれた体表面の見た目や機能を改善する治療を行なう診療科。
たとえば、乳がんの手術で乳房を切除したあとに、お腹や背中の組織やインプラントなどを使って失った乳房を再建するのも、形成外科の専門です。
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整形外科でも良くならない時...かかるべき診療科、受けるべき検査