「植物的な身体」16×22cm、紙に鉛筆、1992
世界的人気を誇るK-POPグループ、BTSのリーダー・RMが2021年の5月、ARMY(BTSのファン)のためのオフィシャルコミュニティ「Weverse」に、とあるエッセイ集を撮影した2枚の写真をコメントなしでシェアした。そのエッセイ集は韓国の大手書店・教保文庫での週間販売数が250倍に激増し、たちまち完売に。
11月には日本でも『それぞれのうしろ姿』(アン・ギュチョル著、桑畑優香訳、辰巳出版/&books)というタイトルで翻訳出版された。
著者は韓国の現代美術家で、インスタレーションも多く手がけるアン・ギュチョル氏。普段の生活の中では見過ごされがちな"事物のうしろ姿"に着目し、読者の思考を解きほぐすと同時に、前向きな気づきを与えてくれる内容となっており、ARMYのみならず、多くの読者の共感を得ている。日本語版出版を記念して、アン・ギュチョル氏のインタビューをお届けする。
無言で佇む「事物」と「自然」の視点から、社会を見つめる
――"事物のうしろ姿"に着目したきっかけを教えてください。
【アン・ギュチョル氏(以下アン)】私の創作の原点にあるのは、平凡な事物に込められている人々の考えを読み取ることです。事物の裏側をのぞいてみると、私たちが世の中をどのように捉えているのか、社会とどんな関係にあるのかが見えてくると思うからです。
フランスの写真家エドゥアール・ブーバと作家ミシェル・トゥルニエによる本『VUES DE DOS(日本未邦訳・韓国語版のタイトルは『うしろ姿』)』にも大きな影響を受けました。
――ねじ釘やサビ、ホコリなど、世の中に隠れがちな小さなものたちへの深い洞察が印象的でした。また、これらに対しての愛情のようなものを感じました。アンさんは韓国メディアのインタビューの中で「捨てられるものに惹かれる」といったことをお話されていましたが、世の中に隠れているものや捨てられるものに心を寄せる理由は何ですか?
【アン】私たちは、身近にあるものを「役立つもの」と「役に立たないもの」に分けてきました。使い道がないと思われるものについては関心を示さないだけでなく、存在しなくてもいいと考えているのです。
このような「世の中のものすべては、人間のための道具としてのみ存在する」という思考が現在の社会を作ったとすれば、私たちは非常に危うい状況に置かれています。よって、無言で佇む事物と自然に注目し、それらの視点から社会を見つめようとするのは、必然の流れと言えるでしょう。
執筆がうまくいかない時は絵を描き、絵がうまく描けない時は文章を書く
――絵を描くことも自身の考えや思いを書き起こすことも、どちらも"自身と向き合う"という共通点があると思います。本書に掲載されている文章を書くことが、書く事以外のアンさんの芸術表現に影響を与えることはありましたか。
【アン】文章を書くことは「芸術表現に影響を与える」というレベルを超え、美術家としての私のキャリアの出発点であると言えます。あれこれ思いついたことをメモに書き留め、それをベースにアート作品のアイデアを構想しています。
これは美術家としてはユニークなケースかと思いますが、大学で美術を専攻した後に7年間美術雑誌の記者として働き、執筆力を身につけたことが影響しているのでしょう。両利きの人が右手と左手を使うように、文章と絵を相互に補完しながら生かしています。執筆がうまくいかない時は絵を描き、絵がうまく描けない時は文章を書いています。
――インタビュー動画で拝見したアトリエがとても素敵でした。創作をする環境において、こだわっていることはありますか?
【アン】アトリエは、ある画家の先輩が20年ほど前に建てたのもので、6年前から私が使っています。上の階が生活するスペースで、階段を降りるとアトリエがあります。周りに静かな散歩道があり、森が近いのが良いですね。彫刻をするには少し狭いのが残念です。
でも、スイスの彫刻家アルベルト・ジャコメッティのような芸術家たちのアトリエを鑑みれば、これでも身に余る幸運と言えるでしょう。狭い空間を効果的に使うには整理整頓が必要で、少しでも気を抜くと道具が消えてしまうのが困ります。今一番やらなければと思っているのは、道具と作品を上手に整理し、必要な時にすぐに見つけられる収納空間を作ることです。
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京都の喫茶店で、店員がポットやカップを並べる仕草に心惹かれる