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上司の部下を守る姿に...『愛の不時着』だけじゃない「泣ける韓国ドラマ」の名作

2022年03月27日 公開

渥美志保(映画ライター、コラムニスト)

渥美志保

近年、韓国ドラマが世界的なブームとなっている。日本で韓ドラと言えば、『冬のソナタ』のような恋愛ものが想起されるかもしれない。

しかし、韓国ドラマに20年間ハマり続けてきたというライターの渥美志保さんによると、そんなイメージを一変させる"全世界のサラリーマン号泣"の話題作があるらしい。バスタオルを用意して思う存分泣いてもらいたいと語る渥美さん。その詳しい内容や見どころについて教えてもらった。

※本稿は、渥美志保著『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

韓国ドラマの流れを変えた、サラリーマンの悲哀を描く名作

韓国ドラマをいまだに「恋愛もの」だけだと思っている人に会うと驚く。『冬ソナ』からアップデートしないまま『愛の不時着』で上書きされて「ほーらやっぱり韓国ドラマ=恋愛もの」ってことなのだろうが、本当にもったいない。そんなこと言ってたら全世界のサラリーマン号泣の『未生 ミセン』を見逃してしまう。

『未生 ミセン』は早く言えばお仕事ドラマなのだが、韓国ドラマにありがちな「アパレル」「マスコミ」「芸能」「クリエイティブ」「化粧品会社」「商品企画部」「PR」みたいなどこか華やかな仕事ではなく、商社の窓際な営業部。そしてツンデレ御曹司との恋愛とか、ドロドロの復讐劇とか、出生の秘密といった「韓国ドラマあるある」は何ひとつない。主人公チャン・グレは、その部署で小突き回されている26歳のインターンである。

グレは幼い頃からプロ棋士を目指し、専念するために高校中退までした青年だ。だが父の急死で囲碁どころか生活さえも立ち行かなくなり、タニマチだった人物の僅かなコネを辿って、どうにか大手商社ワン・インターナショナルのインターン(最終候補)となる。

だが若者の就職難は深刻な韓国において、大手商社のインターンになれる若者たちは、恐ろしく優秀だ。一流大学卒業でバイリンガル、トリリンガルがゴロゴロいる。

高卒認定資格でコピー機の使い方すら知らない「コネ枠」のグレは、そんな中で嫉妬されバカにされ意地悪されるのだが、ドラマは決して「悲惨なイジメドラマ」にならない。グレが冷静で打たれ強く、「そっか」と受け止めて行動を修正し、決して諦めず、着実に歩を進めていくからだ。ちなみに韓国ドラマでは「高飛車な男=高木飛車男」みたいなネーミングがよくあるのだが、「グレ(그래)」はまさに韓国語で「そっか」である。

 

「組織の理論」から部下を守る、理想の上司の存在

だが不屈のグレの存在だけでは、ドラマは大ヒットしなかっただろう。泣かせるのはもうひとりの主役である直属の上司オ課長とのつながりである。

彼らを結びつけた伝説のエピソードは韓国放映版の第3話。勘違いからある濡れ衣を「自ら」かぶってしまったグレを、いつもどおり怒鳴ってしまったオ課長。だが真犯人は隣の部署のインターンだった。

酒の力を借りて謝ろうと初めてグレを飲みに誘った課長は、帰りの繁華街で、その部署の課長に遭遇し、ベロンベロンになりながら「お前のせいで「ウチのやつ」がひどい目に」と絡む。グレの中でその言葉が、何度も何度もリフレインする。囲碁の勝負の世界で生き、学校をやめて友達もなく、インターン仲間からも爪弾きだったグレに、自分を思ってくれる初めての仲間ができた瞬間だ。

オ課長は人間味の塊のような人だ。彼がグレのために真犯人を糾弾しないのは、産まれたばかりの子供がいるそのインターンがクビになりかねないからである。いい意味での「昭和的な情の人」なのだが、組織で冷や飯食いになる理由も、視聴者は理解するだろう。

物語の理不尽は、以降、むしろオ課長のみの上に起きてゆく。真っ直ぐなグレ(そして別部署の新人たちのためにすら!)を守るために、課長は「組織の理論」の防波堤になってゆく。そしてグレもまた、そういう課長を絶対的に支え続ける。

第5話のある場面で、グレが見るオ課長の背後に一瞬だけ「ハートの光」が現れ、「何今の?」的にグレが慌てる場面が微笑ましい。ドラマには「御曹司との恋愛」はないが、ふたりの関係はある種の恋愛とも言える。

「未生(ミセン)」とは囲碁の用語だが、グレは自分が囲碁をやっていたことを会社では言っていない。「碁盤の上で「生石」にも「死石」にもなっていない、どちらにもなりうる石のこと」と説明するのはグレではなく、おそらく囲碁の経験を持つオ課長だ。

「囲碁」は相手の立場を想像するゲームであり、だからこそ二人は組織の理不尽によって追い込まれる他者に共感し、葛藤する。『未生 ミセン』が感動的なのは、そうした人々を「惨めな人間」として描くより、彼らが「忍従してすら守りたいもの」の美しさにフォーカスしているからだ。

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