「愛社精神」はダサいのか
名著『ビジョナリー・カンパニー』を起業前に読んで感銘を受けていた私は、ビジョンの大切さをじゅうぶん理解していました。しかし、自分も社員も本当に腹に落ちる言葉が見つかるまでは、意図的にビジョンを決めないようにしていたのです。
また、みんなの心に響くタイミングを待っていました。「私の言葉が皆に伝わる、絶好のタイミングがようやくやって来た」と、このときようやく思えたのです。
一方、採用活動では、既存の社員に一丸となって協力してもらいました。結果、ベンチャー企業とは思えないような育成制度が生まれました。方針としては「若手の活躍の場を作ること」「若手を抜擢すること」「若手の台頭を喜ぶこと」を掲げました。
さらに、私が率先して取り組んだのは「社内の活性化」です。活躍した社員を社員総会で派手に表彰したり、会社の壁には昇格祝いやキャンペーンのポスターを貼ったりしました。また、新入社員が入ってくると、机にバルーンを揚げて周囲に名前を覚えてもらいやすいようにしました。
大きな効果があったのは、「社内飲み会」です。毎月、目標を達成した部署には飲み代を支給するだけでなく、翌日の半休までセットでつけました。おせっかいかもしれませんが「目標を達成したときくらい、心ゆくまでゆっくり飲んでほしい」という気持ちを込めたのです。
「翌日の半休は、ありがたいです」
そう言ってくれる社員が多いのですが、これは自分が"酒飲み"だから気づけたことかもしれません(笑)。このように、社内の飲み会が頻繁に行われるようになって、ギスギスしていた雰囲気が氷解し、円滑に回り始めました(これらの「活性化」のために、他社では考えられないレベルの予算を投入しました)。
さらに、時代に逆行するように、福利厚生にも力を入れました。
「なぜ、このご時世に福利厚生に力を入れるのですか?」
取材などで聞かれるたびに、こう答えていました。「社員を新たに採用するのにコストをかけるより、長く働いてもらうためにお金を使ったほうがコストパフォーマンスがいいからです」
このようにして、私は社内の空気を変えていきました。すると「会社よりも自分のキャリアを優先する人」「経営に対する不信感を持つ人」が減り、愛社精神を態度で示してくれる社員が増えたのです。会社が「社員を大事にする」と呼びかければ、社員も「会社を大事にしよう」と応える。考えてみれば非常にシンプルなことでした。
もしかすると、「愛社精神」という言葉に「ダサい」というイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、人生の大半を過ごす自分の会社に対して、愛社精神を持てないというのは、よく考えると悲しいことのような気もします。
さて、あなたは自分の勤め先に愛社精神を持てているでしょうか?
ともあれ、人間関係がなめらかで、優しさに満ちた環境は、ストレスも少ないものです。「心が弱くなること」は、ぐんと減ります。また、その人が持つ潜在的な力を存分に発揮しやすくなるでしょう。
つまり、人間関係のメンテナンスはとても重要です。