(写真:HARUKI)
変化の激しいこの時代。大切なのは「頭の良さ」より「ハートの強さ」。日本のIT業界を牽引してきたサイバーエージェント代表取締役・藤田晋氏はこう語る。
同じく長きにわたりIT業界を発展させてきた、"ホリエモン"こと堀江貴文氏。藤田氏と堀江氏はともに事業をしたこともある"盟友同士"。そんな二人が書籍『心を鍛える』を通して、初めて「生い立ち」「起業」「キャリア」「未来のこと」を語り合った。
藤田氏は、経営者として舵取りを行う中で「人間関係のメンテナンス」の重要性に気づかされたという。その取り組みとはどのようなものか。他社も驚きの制度が多く存在するサイバーエージェントならではのエピソードを紹介する。
※本稿は藤田晋,堀江貴文共著『心を鍛える』(KADOKAWA)より抜粋・編集したものです。
サイバーエージェントは社員がよく辞める会社だった
2003年3月、毎月の損益が黒字化するようになってから半年後。私はようやく、弊社の企業文化の根幹となる「土台づくり」に着手できるようになりました。そして、優秀な人材の流出に歯止めをかけることができました。どのようにして、社員たちの心をつなぎとめることに成功したのか。振り返ってみたいと思います。
2003年の秋。私たちは、サイバーエージェント初の役員合宿を箱根で行いました。1泊2日、泊りがけ。日常業務に追われて先送りにしてきた課題を解決するために、ひたすら話し合いました。そこで、弊社の命運を左右するような大事な決定が、いくつもなされました。特に、その後の経営に大きく影響を与えたのは「長く働く人を奨励する会社にしよう」というポリシーです。
お恥ずかしい話ですが、その頃までのサイバーエージェントは、社員がよく辞める会社でした。2000年前後のネットバブルの頃に多くの人を採用しましたが、その後、ほとんどが去っていきました。会社経営においても、当時は「優秀な人を厚遇し、できない人が会社を去るのは当たり前」という風潮がありました。
それに疑問を投げかけたのが、創業時からのメンバー、日高裕介(現副社長)でした。新卒入社の社員について「やはり優秀だ」「たとえ景気が悪くなっても一生懸命に頑張ってくれる」、そんな指摘をしてくれたのです。
そこで私たちは「企業文化を大切にし、長く働くことを奨励する会社になる」という方針を打ち出しました。
そのときの私は無意識のうちに、父親の「献身的な働き方」を思い出していたかもしれません。カネボウの工場で勤務していた私の父は、身を粉にして働き、体を張って仕事をしていました。それはカネボウが右肩上がりに成長している最中で、自分の仕事が業績向上に貢献しているのを肌身に感じていたからでしょう。将来にも希望が持てていたからでしょう。
うれしいことに、社内の雰囲気はそれからどんどん変わっていきました。時代に逆行するように「終身雇用を目指す」という方針を打ち出したところ、社内にさまざまな意識の変化が起こりました。
「私はずっと、サイバーエージェントで働きたいと思っています」
そんな言葉を社員にかけてもらったときは、目頭が熱くなりました。その頃のサイバーエージェントの社内は、なんとか黒字化し始めたことで明るさが芽生え、元々持っていた前向きで元気な姿を取り戻しつつありました。
そこに「終身雇用を目指す」「長く働く人を奨励する」というメッセージは、深く届いたようでした。実際、「社員を大切にする」という会社側からのメッセージに応えるように、社員の退職がぱったりなくなったのです。
また、「長く働く場所」ということに安心したのか、社内恋愛をしていたカップルたちが次々と結婚に踏み切っていきました。そのめでたいムードが、さらに社内を明るくしてくれました。「21世紀を代表する会社を創る」という言葉を弊社の大事なビジョンとして、社内に浸透させたのもこの頃です。