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昆虫はパソコン内部や車のオイルにも住んでいる...地球の支配者の知られざる生態

アンヌ・スヴェルトルップ・ティーゲソン(著),丸山 宗利(監修),小林玲子(訳)

2022年04月02日 公開 2024年12月16日 更新

昆虫はパソコン内部や車のオイルにも住んでいる...地球の支配者の知られざる生態

“昆虫”ときいて何が思い浮かぶだろうか。カブトムシ、チョウ、ハチ、カ、アブ、アリ、ゴキブリ……私たちの認識している昆虫はほんのわずかだ。虫はどんなところにも存在している、そして虫の世話になっていない人は地球にひとりもいない。今この時も黙々と地球を回す昆虫たちの壮大な世界をのぞいてみたい。

※本稿は、アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン 著『昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す』(&books/辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

地球は昆虫の星である

この世界には、ヒト1人につき2億匹以上の昆虫がいるともいわれる。みなさんがこの文章を読むあいだも、地球上では膨大な数の昆虫がせっせと活動を続けている。わたしたちヒトは昆虫に包囲されているといってもいいだろう。地球は、昆虫の惑星なのだ。

昆虫は恐ろしく数が多いので、全体像を把握するのはむずかしい。そして昆虫はどこにでもいる。森林、湖、牧草地、川、ツンドラ、山にも。

たとえばカワゲラは、ヒマラヤの海抜6000メートルの高所にも生息しているし、ミギワバエの幼虫のように、気温が摂氏50度を超える灼熱のイエローストーン公園の天然温泉に棲んでいるものもいる。

世界でも屈指の深さを誇る洞窟の闇の中には、視力のないユスリカのなかまがいる。教会の入口に置かれた洗礼盤の水、コンピュータの内部、地面にこぼれた車のオイル、胃酸と胆汁に満ちた馬の胃の中にも昆虫はいる。砂漠、凍りついた海、雪の下、セイウチの鼻の穴にもいる。

昆虫はすべての大陸にいる(ただし南極大陸にいるのはいまのところナンキョクユスリカという一種だけで、それも気温が摂氏10度を上回る日が続くと死んでしまう)。

海の中にも昆虫はいる。アザラシやペンギンの尻には、さまざまな種のシラミがついていて、宿主が海にもぐってもしがみついて離れない。ペリカンののど袋に棲むシラミや、6本の脚を広げて海面を滑りながら海の上で一生を過ごすアメンボもいる。

体は小さくても、昆虫の能力は驚くほど多彩だ。たとえばヒトが地球にあらわれるずっと前から、昆虫は農耕と牧畜をおこなっていた。シロアリは菌類を栽培して餌にするし、アリのなかにはヒトが乳牛を飼うように"アブラムシを飼う"種もある。

スズメバチはセルロースから紙をつくった最初の生きもので、トビケラの幼虫はヒトが魚獲り用の網をこしらえる何百万年も前から、網のようなもので獲物を捕らえていた。

昆虫は空気力学と航空術というむずかしい課題も、数百万年前に克服している。火の扱いこそ習得しなかったが、少なくとも光は味方につけている。体の中で光をつくりだす昆虫もいる。

 

世界昆虫会議

「個体数」と「種の数」、どちらで数えても昆虫は地球上で最も繁栄している生きものだ。個体数の多さはもちろんだが、種の数としても、これまでに発見された多細胞生物のゆうに半分以上を占めている。毎月一つの種を紹介する"今月の昆虫カレンダー"をつくるとすると、すべての紹介がすむまで8万年以上かかる。

地球上で現在知られている生物が、大小を問わず種ごとに国連に加盟していると想像してみよう。それぞれの種が1匹だけ代表を送りこんだとしても、150万種をはるかに上回るので、会議場は超満員になるはずだ。

この"生物多様性の国連"の発言力と投票権が、それぞれの種の個体数に応じたものだとすると、その場を支配し、過半数の投票権をもつのは昆虫になる。

クモ、カタツムリ、カイチュウといった昆虫以外の小さな生きものだけでも、投票権の5分の1に相当する。あとは植物一般がおよそ16パーセント、これまでに発見されている菌類や地衣類は5パーセントを占める。

こうした「種の多様性」を前にしたら、ヒトなどたいしたことはない。ヘラジカ、ネズミ、魚、鳥、ヘビ、カエルなど、脊椎動物の集団に合流したとしても、全体のわずか3パーセントだ。個体数でも種の数でもヒトは、名前も知られていない小さな昆虫の足もとにもおよばない。

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