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「悟無好悪(さとればこうおなし)」人間関係の悩みが軽くなる禅の言葉

枡野俊明(禅寺の住職/大学教授/庭園デザイナー)

2022年08月30日 公開 2024年12月16日 更新

 

先入観を捨てる、「不思議で曖昧な縁」を大切にする

「悟無好悪」(さとればこうおなし)という禅語があります。

「人に対しても、あるいはどんなことに対しても、先入観をもつことなく、あるがままの姿を認めることさえできれば、好き嫌いなどはなくなってしまう」という意味です。

思えば人と人との関係は、とても不思議でとても曖昧な縁で成り立っています。夫婦になるのもそうです。同じ時代に生まれた者同士が、何かの縁があって出会う。それは生まれつき決められていたものではなく、不思議な縁がふたりを結びつける。

出会って結婚する人もいれば、別れてしまう人もいます。それもまた明確な理由があるわけでなく、言葉には言い表せない縁なのでしょう。

同じ会社で仕事をするのも縁です。数多ある会社の中で、たまたま同じ会社を選び、たまたま同じ部署に配属される。あと1年遅れれば別の上司だったかもしれないし、あと1年早ければ別の部下だったかもしれない。

この地球上で、たまたま日本人として生まれ、たまたま同じ時を生きている。奇跡のような出会いだと思いませんか。そんな「曖昧で素晴らしき縁」を大切にしたいものです。

相手と自分との関係。そんなものを決めつけたところで意味などありません。もしも望まない縁だと思っても、あえて切ることもせず、自然の流れに委ねていればいいのです。

人生の中で、自分にとって善き縁は必ず残っていきます。自分が望まない縁というのは必ず消え去っていきます。不思議なもので、縁とはそういうものなのです。

今自分の周りにあるたくさんの縁。その縁に感謝をしながらも、執着をしないことです。

「この人とは一生つきあいたい」「この人とは早く別れたい」。一時期の感情から決めつけてしまうのではなく、なんとなく曖昧なままにしておけばいいのです。それはけっして優柔不断ということではなく、生きていくためのひとつの知恵だと私は思っています。

そして、その曖昧な人間関係の中から、きらりと光る縁を見つけるためには、色眼鏡をはずすことです。赤い色の眼鏡をかけていたら、赤い洋服の色は分かりません。悪意という眼鏡をかけていたら、敵は増える一方です。

損得という眼鏡をかけていたら、真の友人はいなくなってしまいます。生まれた時にもっていた純粋無垢な目で、周りの人たちを見ることです。

人づきあいの中には曖昧さがあります。それは当たり前のこと。なぜなら人間の心そのものが曖昧なのですから。

 

【枡野俊明(ますの・しゅんみょう)】
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授

1953年神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて、「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル日本庭園など。

 

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