反田恭平が先導する時代に沿ったクラシック音楽
著者の活躍はコンクールの舞台にとどまりません。例えば日本クラシック音楽界ではじめて、自身のレーベル「NOVA Record」を立ち上げています。他にも自身が常任指揮者と代表取締役を著者が務める楽団「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」を始めています。
コロナ禍においては、クラシック業界だけでなく、エンタメ業界でもほぼ最速の企画として、オンデマンドの有料配信コンサートを開きました。
その他にもオンラインサロン「Solistiade」も立ち上げています。有料会員を対象に、コンサートチケットの先行販売や未公開映像などを提供しています。
これだけ立て続けに何かに挑戦し続ける姿勢は、芸術の世界に身を置く人としてだけでなく、リーダーや起業家としても尊敬の念を抱かせます。やるべきだと思ったことに対して、まわりの人を巻き込み先導していく特性が突出しているようです。
多くのことを同時並行的に手掛けられる行動力を見ると、ここまでの成功はほとんど必然だったのではないかとも思えます。
自分を表現できるものがある幸福
反田恭平という存在に本や演奏で触れて思うことは、自分を表現できるものがあって、しかもそれが芸術の領域であることの素晴らしさとうらやましさです。
自分が生きた世界とそうではない世界に違いがあるとして、自分の存在が少しでも人のためになっていればと願っていたとします。その方法は人の才能のありかによって異なります。
自分の周りの家族や友人を通じたものかもしれませんし、仕事を通じてかもしれません。会社を経営しているとすれば、その会社の事業を通じた社会への貢献を信じることになるでしょう。そのどれもが本来は比べられないものです。
ただ、本書を通じて感じるのは、それが芸術の領域であることの清々しさです。20世紀を代表する物理学者のアルベルト・アインシュタインの言葉に、「すべての宗教とアートとサイエンスは同じ一本の木から分かれた枝である」というものがあります。アートの領域は特に感性に訴え、人を魅了します。
その体現者として存在感を示す著者の才能は、芸術家にとどまらないことは明白です。音楽により感動を広めていくだろう伝道師としての著者には、これからも多くの応援が集まることでしょう。
著者が強く輝き始めたこのタイミングで本書を読み、今後の音楽界の発展に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。