ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『終止符のない人生』(反田恭平著、幻冬舎)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
クラシック音楽を愛する人へ
世界三大コンクールの1つ、ショパン国際ピアノコンクール。課題曲は全てショパンの作品、ピアノ部門のみで構成され、5年に一度のみの開催という、数あるコンクールの中でも際立った存在感を放っています。
2021年のコンクールで日本人歴代最高位の2位を獲得したのが著者の反田恭平(そりたきょうへい)氏です。既に3度TBSテレビ「情熱大陸」にも出演していますので、ご存じの方も多いかもしれません。
自分はこの偉大なピアニストの本を読むにあたり、先入観なく本としてのすばらしさを味わいたいと感じたため、まず演奏を聴かずに読み通しました。
そして、読み終えた後にYouTubeを通じてショパンコンクールでの著者の演奏を全て聴きました。元々著者のファンの方でしたら、本書は格別の感動があることでしょう。この本の楽しみ方は人によって様々あるように思います。
日本のピアノ人口は約200万人だと言われています。本書はクラシック音楽を愛する人もそうではない人も、芸術を追求していく狂気と偉大な挑戦の軌跡をたどれる、素晴らしい読書体験が約束された一冊です。
本から伝わるピアニストとしての天才性
著者のピアニストとしての半生を読んで感じるのは、ピアニストを目指す普通の人はそのまま参考にしてはいけないだろう、ということです。11歳まではサッカーに夢中だったようで、それまでの自宅での練習時間はせいぜい日に1時間程度。
しかもアニメチャンネルを見ながら、練習しているふりをしている程度だったといいます。通常、ピアニストを目指すような真剣な人は、小学生でも毎日3時間程度練習していると聞きます。はっきり言って、著者は天性のピアニストなのではないかと思わされます。
中学に入ってからはピアノに充てる時間がずっと増えたそうです。電子ピアノを買ったことで、夜も周りの環境を気にせず練習できるようになったといいます。そして、中3の進路選択までに、父親を納得させるためにコンクールで1位を取って、晴れて桐朋女子高校音楽科(男女共学)に進学しました。
金髪、サングラス、ビーチサンダルで通学した高校時代を経て、高校3年生のときに日本音楽コンクール(ピアノ部門)で見事1位を勝ち取りました。そして、ロシア語も習得していない状態で国立モスクワ音楽院に飛び込みました。
ほとんど荷物を持たずに入寮して、めぐまれた食事もなく、キャンパスまでの極寒の環境にも耐え、寮内でも刃物で脅されるような過酷な留学生活だったようです。
通常は3カ月かけて訓練する課題曲を1週間で学ぶペースで進んでいく、ロシア流のスパルタ教育も何とかこなしていきました。そして、留学開始から3年半経ったところで同じ環境に停滞感を感じて、ショパンコンクールが開かれるポーランドに学びの舞台を変えました。
精神力が問われる「ショパンコンクール」
ショパンコンクールは5年に1度しかありません。ピアニストにとって、その演奏にかかる重圧は相当のものだと想像できます。コンクールの道のりは、予備予選、1次予選、2次予選、3次予選、本選(ファイナル)と続きます。
その予選から本選にいたる内面の葛藤や達成していく道のりは、本書をぜひお読みいただきたいと思います。アップダウンの激しい、カタルシスを感じるエキサイティングな物語です。
読んでみて感じたことは、ショパンコンクールはピアノのテクニックの戦いではない、ということです。このコンクールで予選を通過する人は、国を代表するような才能ぞろいでしょう。
そこでは、ピアノの技術だけではなく、表現する自分自身の感性や人間性、極度の緊張感に耐える精神力も問われる厳しい世界だと想像されます。
そのような苦難を乗り越えて、ファイナルではショパンと融け合う夢のような時間を過ごしたといいます。感覚を研ぎ澄ました人としての極限の域に達しているように感じます。