コミュニケーションの基本である礼儀・礼節をはじめ、普段からの意識の在り方で人は大きく変わっていく。社員教育のエキスパート朝倉千恵子氏が、礼儀・礼節の重要性と"愛される人財"について語る。
※本稿は、『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』(2012年5・6月号)より抜粋・編集したものです。
礼儀・礼節に国境はない
前回、熱意を人に伝えるには形が大事だということをお伝えしました。これは、私が部下教育で最も大切にする礼儀・礼節についてもあてはまります。
ときどき、「人間は見た目やかっこうじゃない、中身だ」とおっしゃって形をおろそかにされる方がいますが、この考え方は絶対に損だと思います。なぜなら、人は見た目で快・不快を感じ、そこから人の良し悪しや好き嫌いまで判断してしまうもの。相手を尊重し思いやる気持ちがあっても、形に表わさなければ伝わらないものだからです。
私自身の経験からお伝えしますと、子どものころ、商売をしていた両親から口すっぱく言われたものです。
「あいさつをしすぎて怒る人はおれへん。人にあいさつされてから返すのではなく、自分からすすんでしいや」
理屈などありません。子どものころですから意味も分からずやったものです。しかし、それを毎回くり返していたら周囲の大人が喜び、ほめてくれることを知り、やがてそれが大事なことだと理解できるようになったのです。まさに礼儀とは、躾とは、そういうものだと思うのです。
昨年の11月、中国の上海。初めての海外講演で、ロールプレイを交えながら、礼儀の重要性や印象力についてお話しさせていただきました。ありがたいことに、多くの中国の方や、一緒に仕事をしている日本の方が共感してくださったのです。このことで感じたのは、“礼儀・礼節に国境はない”ということでした。言葉が通じなくても大事なことは伝わる……。
礼儀正しさを身につければ、敵をつくらない。だからこそ、礼儀をわきまえたふるまいができる人は、やさしさや思いやりを世界中の人に伝えられる"生きる力"を身につけた、まさに"愛される人財"と言えるのではないでしょうか。
メイクのムラは仕事のムラ
礼儀・礼節は子どものころからの躾がものを言いますが、大人になってからでも身につけることはできます。ただし、身につける過程で大事なのは、"人によって態度を変えない"こと。これは一番のこだわりでもあります。
以前、社員を厳しく叱ったことがありました。"きょう、○○さんがお見えになる"ということが事前に分かっていると、全員がパッと立って、「いらっしゃいませ!」と満面の笑みでお迎えすることができるのに、あるとき業者の方がお見えになったとき、だれ一人として立たなかったからです。
私は、"メイク(化粧)にムラがある人は、仕事にもムラがある"を肝に銘じています。つまり、"きょうは特別なお客様だから念入りに""きょうはそうじゃないからそれなりに"は、気分によってムラがあるということです。
人によって態度を変える人は、必ずいつか逆をやります。「ありがとうございました!」と元気よく言いながら、ふっと冷たい横目を、見せてはならない人に見せてしまうことが起きるのです。それは礼儀・礼節が演技だからです。付け焼刃の演技はバレるのです。
でも、演技も人によって変えず、毎度毎度、100回、200回、1000回とやっているうちに、それは自分のものになり、演技が演技ではなくなります。これが、礼儀・礼節を身につける鉄則です。