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働きアリの「7割」はサボってる?生物学者が驚いた自然界の労働システム

長谷川英祐(進化生物学者、北海道大学大学院准教授)

2022年12月27日 公開

働きアリの「7割」はサボってる?生物学者が驚いた自然界の労働システム

イソップ童話の『アリとキリギリス』の印象からか、一般的に、アリは「働き者」というイメージを持っている人も少なくないでしょう。しかし、それは真っ赤なウソ。

実際は、全体の3割くらいしか働いておらず、後の7割はボーッとたたずんでいたり、自分の体を掃除していると、北海道大学大学院准教授で進化生物学者の長谷川英祐氏は解説します。

そこには、「働き者のアリ」だからこそ、働かない理由があるようです。

※本稿は、長谷川英祐氏著『面白くて眠れなくなる進化論』(PHP文庫)より、一部抜粋・編集したものです。

 

7割の働きアリが「労働」していない

アリは働き者であると考えられています。暑い夏の日でも、地上に落ちた昆虫にはたくさんのアリたちが群がり、それを巣に運ぼうとしています。

このような様子から、イソップの童話では、アリがせっせと食べ物を集めていた夏に、鳴いて暮らしていたキリギリスが、冬になって食べ物が無くなってアリの巣を訪ねると「あなたは夏には鳴いて暮らしていたのでしょ?ならば冬は踊って暮らせばいい」とすげなく追い出されてしまう、という訓話(働かざるもの食うべからず)を残しています。

かように、アリは働き者であるというイメージがあります。

しかし、アリの大部分は巣の中で暮らしており、地上に現れるアリはエサを集るためにやってくるのですから、いつも働いているのはある意味で当然のことです。

それでは、巣の中のアリはどうなのでしょうか。中を観察できるような人工のアリの巣を作って観察すると、意外なことがわかります。

ある瞬間を見てみると、全体の3割くらいしか働いておらず、後の7割はボーッとたたずんでいたり、自分の体を掃除しています。子どもの世話のような、コロニーの他のメンバーの利益になるような「労働」をしていません。

まあ、ある瞬間に働いていないだけならば、人間たちの職場でも、ある瞬間にはコーヒーを飲んでいたりする訳ですから、そういうものなのかもしません。

ところが、一時的な休息ならば、時間が経てば働くはずですが、1カ月、あるいはもっと長期間アリの巣を観察しても、1~2割のアリは、労働とみなせる行動をほとんどしないのです。

アリのコロニーの生産性を考えれば、全員が働いているほうが、生産力が高いのはいうまでもありません。それでは、自然選択の存在下でなぜ、常に働かないアリがいるような無駄が存在しているのでしょうか。

 

働かないのは「体力を温存」するため?

まず、ずっと働かないアリがどのようにして現れるのかを考えます。

アリのワーカーの各個体は、仕事が出す刺激が、ある一定の値以上になるとそれに反応して働きだすと考えられています。この時の仕事を始める限界の刺激値を「反応閾値」と呼んでいます。

さらに、「反応閾値」は特定の仕事について、個体差があることもわかっています。つまり、小さい刺激で働きだすものと、刺激が大きくならないと仕事を始めないものがいるのです。

このようなシステムになると、ずっと働き続ける個体から、ほとんど働かない個体が自動的に現れるのです。なぜでしょうか。

反応閾値ではわかりにくいので、人間の中にきれい好きの人とそうでもない人がいることにたとえて、説明しましょう。

きれい好きの「程度」が様々な人々が集まり、部屋で何かをしていると考えます。時間が経つとだんだん部屋が散らかっていきます。

このとき、誰が掃除を始めるのでしょう。そうです、きれい好きの人ですね。きれい好きの人は部屋が散らかっているのが我慢できないので、少しでも散らかってくると掃除を始めてしまいます。

さて、部屋がきれいになりました。そこでまた皆が何かをやっていると、再び部屋が散らかってきます。誰が掃除するでしょうか?そうです。また、きれい好きの人が掃除するのです。

理由は「散らかっていると我慢できない」からです。結局、きれい好きの人はいつも掃除をしていますが、散らかっていても平気な人は全然掃除をしません。

この時大事なことは、もしきれい好きの人が疲れて掃除ができなくなってしまって、部屋がさらに散らかると「あまりきれい好きでない人が掃除を始める」ことです。そういう人も、ある程度を超えると部屋が散らかっているのには耐えられないからです。

アリでも同じことが起こっていると考えられます。

働かないアリはサボっている訳ではなく、ある一定の値以上に仕事が出す刺激が大きくなればちゃんと働けるのですが、さっさと働いてしまう個体がいるために、働かずにいるだけです。

ともあれ、全体を見てみると、いつも働いている個体から、ほとんど働かない個体まで、様々なアリがいることになります。

さて、このような反応閾値の「個体間変異」があると、働かない個体が必ず現れてしまうことがご理解いただけたと思います。

実際にアリはそうなっていると考えられる訳ですが、問題なのは、短期的な生産量が大きいほうが適応度的には有利なのにもかかわらず、「アリはなぜ、必ず働かない個体が出現するようなメカニズムを、コロニーの労働制御のシステムとして採用しているのか」ということです。

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アリも働きすぎると「疲労する」

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