だるさ、疲れ、不安、朝起きるのが憂鬱、気がついたら涙が出ている...など、50代後半からあらわれる心身の不調。この場合、じつは「質的な栄養失調状態である」ことが多いことは、あまり知られていない。
医師の秋田巌氏はうつ症状がみられる患者に対して、向精神薬の服用やカウンセリングよりも速いスピードで症状を改善に向かわせる「藤川メソッドによる分子栄養療法」を実践する。そんな秋田氏が、うつを発症した人におすすめする運動法や、生活習慣を紹介する。
※本稿は、秋田巌著『60歳うつ』(PHP新書)より、一部抜粋・編集したものです。
スロージョギングのやり方
以前からやりたいと思っていたスポーツがある人はそれをされるといいでしょう。特にない人には、スロージョギングをおすすめします。これは元福岡大学名誉教授の故・田中宏暁先生が提唱されたジョギング法です。
やり方は簡単。息の切れない程度に、ゆっくり走るのです。歩くのではなく、ゆっくり走る。体のどの部位にも負担がかからないスピードでゆっくり走ります。歩くよりも遅くなることもあり、ウォーキングをしている人に追い越されることもあるくらいです。
目線は下を向かず、前方を見ます。背筋を伸ばし、着地はかかとからではなく、フォアフット(足の指の付け根と土踏まずの間の、少し盛り上がっている部分)で着地します。
1本線の上を走るイメージではなく、足幅を楽に広げて、右足と左足をそれぞれ2本のレールの上に乗せるようなイメージです。体のどこにも負担がかからないように、ゆっくり走ってください。
とにかく無理をしないことがコツ。これを1日30分できればベストですが、最初のうちは1分でも5分でも構いませんから、続けることが大事です。毎日でなくても、週に3日とか4日とか、継続するリズムを作ってください。
太陽の光はうつ病にダイレクトな効果
運動以外では太陽の光です。日光の恩恵を言い出すと、あらゆる生きとし生けるものが太陽エネルギーを受けて、この世界に生まれ出て育っているわけなので、そもそも論になってしまいますが、いずれにせよ太陽の光はうつ病の改善にダイレクトな効果があります。
とりわけ朝の日光を浴びることは、うつ気味の人の一日を快適なものにしてくれます。暗くて寒い日が多い北欧のフィンランドやノルウェーでは、朝から強い電灯の光を浴びて、うつ病の予防や治療をするライトセラピー(光療法)が行なわれているくらいです。
セラピー用の人工的な光でも構いませんが、やはり天然の太陽光に勝るものはありません。
なぜ、うつ病の人が太陽の光に当たることが大事なのか。それは、セロトニンという脳内の神経伝達物質が、太陽の光を浴びることで合成されるからです。
セロトニンは精神を安定させたり、不安や恐怖を和らげたりする作用があり、幸福感を高める働きがあります。ストレスが軽減されることで、うつ病や自律神経失調症の予防となるのです。
セロトニンを増やすには日光浴が効果的です。セロトニンをつくる神経は、網膜が光を感じることで活性化します。特に太陽光のような強い光を浴びると、セロトニンが分泌されやすくなります。
セロトニン合成を活性化させるには、2500〜3000ルクスほどの強さの光が必要ですが、太陽の光は曇りの日でも1万ルクス程度あります。一般的な家庭用の蛍光灯は500ルクス程度なので、セロトニン合成が活性化するまでには至りません。
また、昼間に太陽の光をしっかり浴びてセロトニンの分泌量が多いほど、夜間の睡眠の質が向上します。
なぜなら、メラトニンという睡眠を司るホルモンがしっかり分泌されるからです。このメラトニンはセロトニンから作られるため、昼間のセロトニン分泌が少ないと、メラトニンの量も少なくなり、不眠の症状も出やすくなります。
セロトニンの材料は、アミノ酸のトリプトファンです。タンパク質を摂って日光に当たり、セロトニンを増やしてメラトニンを分泌させることで、精神の安定と睡眠の質の向上が図れるというわけです。