「間に合う」どころか「むしろ、これから」
さて、ここでは分かりやすいように辻堂さんの例を紹介しましたが、55歳からでもまだ全然間に合うどころか、「むしろ、これから」ということがお分かりいただけたでしょう。
年収が急激に下がる事実上の定年が60歳だったとしても、55歳ならまだ5年も準備期間があるのです。「間に合う」どころの話ではありませんので、まずは安心してください。
「定年」という文言を使うと、給与生活者だけのことと思われがちですが、開業医や士業といった自由業のみなさんも、55歳という年齢は事業承継をどうするのか、これからの人生を意味あるものにするためにどうするか――を考え始める年齢になります。
攻めるのか、守るのか
会社人生というのは、50代のさらに手前の40代の時点で「守り」に入るようにできています。拙著『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)の取材中、多くの諸先輩が、
・好きなことを躊躇せず、何でもやっておけばよかった
・難解なことに、何にでもチャレンジしておけばよかった
・今までの勝ちパターンにとらわれず、もっと自分の感じるままにやればよかった
と40代を後悔していました。
要は、チャレンジしたいと思いつつ、どうしても失敗を恐れ、無難にやり過ごしたいと思って、結局「守り」に入ってしまったことを後悔していたのです。
40代本では「80%はディフェンスモードでいいので、20%だけはオフェンスモードを」と、対処策を紹介しました。
しかし、50代半ばともなると、社内ではさらに「攻める」ことに対する動機もエネルギーも減少しているのではないでしょうか。「攻める気力、体力も......」と。
「攻める気力、体力」が減少したならば、少ないエネルギーで成果を出せるように「矛先の的」を絞る手があります。
最後まで攻めたほうが人生は楽しいなら、何にチャレンジするのかの焦点を絞るのです。会社人生を続けるのであれば、まさにリスキリングで、これまでのスキルと経験のバリューをさらに上げてくれそうな新しいスキルを1年に1つずつ習得する、といったように。
また、自分ひとりで攻めることに躊躇があるなら、"共犯者"をつくって、「赤信号みんなで渡れば怖くない」式に、自身を集団心理に巻きこんで、新境地に挑む方法もあります。
もちろん、これも「矛先の的」が大雑把では逆効果になってしまいますので、何にチャレンジするかのターゲットを誤らないように。
そのターゲット選びでオススメなのは、「足跡として、この会社に何を遺したいのか」という思考です。
この会社で生きた証として、後進に何を遺したいのかを自問した時に出てくるものは何か? それをチャレンジのターゲットにすれば、まずは、あなたを見る周りの目が変わってくるので、あなたのモチベーション維持にも良い影響を与えるはずです。
「何を守っているのか」を明確にする
もちろん、「ジャンプの前は深く沈む」ではありませんが、何かを見極めるために、動かずに「待つ」ことも55歳前後の給与生活者には賢い方略になります。
50代にとって、何をするにも一番大事なのは「タイミング」なので、期が熟すまで動かない選択も当然アリですが、できればこの時に「何を守っているのか」を明確にしておくといいと思います。ただ漂流しているのではなく、自身の意思で意図的に「守り」についていると自覚できるように。
「意図的に」という意味では、55歳以降の1年、1年を「攻めの1年」にするのか、「守りの1年」にするのかを念頭に、計画しておくという手もあります。
業績が右肩上がりの時には攻めて、攻めて、攻め切るほうがいいでしょうし、業績が右肩下がりになった局面では全力で守りに入ったほうが業績は維持できるはずです。
ポイントはそのタイミングの見極めになりますので、自分のエモーショナルな部分だけでなく、置かれている環境や潮目の変化を冷静に判断しつつ、ご自身を上手にコントロールしてください。