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2025年には415万人に? 社会に「働かないおじさん」が生まれる原因

前川孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役)

2023年11月07日 公開

 

モチベーションを最大化すれば底力が出る

私が前職時代に、新情報誌の立ち上げで現場リーダーに着任した時のことだ。ちょうど折あしく、社内でもう1つの人気情報誌の立ち上げと重なった。そちらは花形事業と目され社内から異動希望者が多かったが、こちらは社内公募で希望者を募っても振るわない。事業規模も小さく、他事業からエース人材を配置転換することもかなわなかった。

そこで困った幹部が他の事業部門に声を掛け、何とか人を出してくれるよう頼み、やっとのことで創刊メンバーをそろえたものの、各部署で期待されず、放出されたメンバーたちの寄り合い所帯という状態だった。すなわち、2-6-2の法則の下位2割が集まったチームでの事業スタートとなったのだ。

案の定、集まったメンバーには言動が荒い者や、遅刻ばかりする者が出るなど問題が頻発。メンバーたちも自身の人事評価を分かっており、「自分は前の部署から追い出された」と感じ、くすぶり気味だった。いわば落ちこぼれ集団ともいえる状態だ。

しかし、私自身は新情報誌の立ち上げに強い思いがあり、メンバーを集めてはビジョンを語り、一人ひとりから意見やアイデアを募るなど、一心に働き掛けた。

立ち上げるのは「社会人向け学び情報誌」。本来、自ら進んで学ぶことはワクワクして楽しいもの。読者は学ぶことで、人生の可能性を広げ成長できる。

良い情報誌づくりで読者に貢献できる働きがいある仕事だからみんなで取り組もうと、思いを伝え続けた。何より少人数のチームなので、全員に頑張ってもらわなければ創刊はままならないのだ。

そうするうちに、メンバーたちに徐々に当事者意識が芽生え、進んで仕事に励むようになっていった。その結果、見事創刊にこぎ着けたのだ。「自分たちにもこれだけの仕事ができるんだ」。お祝いの打ち上げで、メンバー全員で大いに盛り上がった時の、晴れ晴れとした表情が今も忘れられない。

その時に痛感したのは、人には何にも増してやる気が大切だということ。やる気=動機づけの強さが、仕事の成果を大きく左右する。

1つの仕事の目的や意義とともに到達したいビジョンをみんなで共有し、一丸となって「やろう」と思えた瞬間から一人ひとりが自分の力を出し切り、チームとしても大きな成果につながる。

それまでは上司だけでなく、同僚からも期待されず、任せた仕事すらできないと疎まれていたメンバーだった。それが新たなポジションで活躍を期待され、「自分がやるしかない」とスイッチが入り、モチベーションを最大化することで底力を発揮した。その姿を目の当たりにしたのだ。

[図表3-4]は、アメリカの心理学者N・R・Fマイヤーが提唱した「やる気×能力=業績」という方程式を基に、私が加筆したものだ。

ここで着目すべきは、やる気と能力との相乗効果だ。いくら大きな能力があっても、やる気がなければ業績は上がらない。一方、能力は人並みでも、やる気が大きくなれば業績は上がっていく。

また、能力向上には時間もかかるが、やる気のスイッチはすぐにでも入れられる。メンバーや時間に制約があっても、モチベーションの高め方次第で、思ってもいなかった大きな業績も望める。そして、それが本人の成長と自信につながり、さらにやる気が高まる。

このプラスの循環が回り始めれば、部下の活躍も軌道に乗り、スピードアップしていくのだ。

これは、チーム運営=組織開発にも当てはめることができる。メンバーが互いに「尊重×連携」で相乗効果を発揮するほど、チームの業績は高まる。その結果、組織が充実し、感謝し合い、より尊重し合える関係が深まるという好循環につながるのだ。

 

強みも弱みも持ち味への光の当て方次第

また、[図表3-4]に示したように、人材開発と組織開発の両輪を回し、個人とチームの相乗効果を高めていけるか否かは上司次第だ。

部下を育て、チームの業績向上を目指して責任を持って行動する力、私の主張する「上司力(R)」が求められる。メンバーの多様性が増す中で、上司力向上の不断の努力が欠かせないゆえんだ。その際に上司に必要となるのは、メンバー一人ひとりの志向や能力を見極め、適材適所を実現することだ。

人にはそれぞれ個性があり、誰にでも好き嫌いや強み・弱みがある。不得手なことや、どうしてもモチベーションが持てないことを延々とやらせても成果は上がらない。

そこで本人の持ち味が強みに変わるような役割を担ってもらうことで能力を開花させ、チーム全体の力にしていくことが大切だ。

世界最大級の家電量販店ベスト・バイの元会長兼CEOだったユベール・ジョリーは、著書『ハート・オブ・ビジネス』(英治出版、2022年)で、「ヒューマン・マジック」という概念を強調している。これは、社内の一人ひとりに火がつき、全員が力を合わせて想像以上の成果を上げることを指している。

Aさんが得意なことはAさんに任せ、Bさんが得意なことはBさんに任せる。また、それぞれの弱みはお互いに補い合う。こうして一人ひとりには得手不得手があっても、チーム全体として良き仕事を成り立たせるのは工夫次第だ。

私は、一人ひとりを見極める際に、その人の持ち味に対する光の当て方で、一つの個性が強みにも弱みにも映ると考えている。それは、2-6-2の法則で下位の2割に当たる人材と思われてきた人でも同様だ。

その人の持ち味が強みになるよう光を当て、最大限に活かせる役割を担ってもらい、やる気に火を付けられれば、一人ひとりが期待した成果を出してくれるもの。メンバー同士が共に支え合いながら、力を発揮し合える環境が整えられれば、全員がさらに成長し、一回り大きな活躍も可能になる。

 

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