伝統的な日本企業の特徴であった、終身雇用や年功序列といった制度が衰退傾向にある。昨今ではジョブ型雇用を導入する企業が徐々に増え、社員の成果を重視する風潮が高まっているのだ。しかし、成果によって金銭的なインセンティブをつけることは本当に効果があるのだろうか? 前川孝雄氏が解説する。
※本稿は、前川孝雄著「部下を活かすマネジメント"新作法"」(株式会社労務行政)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
成果を出した人に対してお金で報いる動きが活発化
日本企業においても、年功型賃金から成果型賃金への流れが進行している。日本生産性本部の「第16回日本的雇用・人事の変容に関する調査」(2019年)には、バブル経済崩壊後約20年間の賃金制度導入の推移が示されている[図表6-6]。
終身雇用と年功序列を特徴とする日本型雇用の賃金制度の見直しが進み、仕事の重さを反映した役割・職務給の導入率が上昇。2019年3月時点で、管理職層78.5%、非管理職層57.8%と、高まりを見せている。
その後、2020年からのコロナ禍に伴いリモートワーク導入企業が急増。仕事のプロセスが把握しづらいため、成果重視にシフトする傾向が強まった。
グローバル化の流れとともに、職務要件を明示したジョブ型へのシフトが一段と進み、連動して成果型賃金への移行がより活発化していると考えられる。
実際、日本型雇用の代表例であった大企業が続々とジョブ型の人事制度を導入。ジョブ型イコール成果主義ではないが、成果を出した人に対してお金で報いる仕組みに連動しやすい。2023年には賃上げラッシュの波が訪れ、金銭的報酬で社員の動機づけを図る賃金制度への流れは加速していくことが見込まれる。
人は金銭的インセンティブで頑張るもの?
こうした企業の動きの理由は、ある意味シンプルだ。仕事の成果に応じた金銭的インセンティブを与えることで、人はさらに大きな業績達成を目指して仕事に励むと見込むからだ。また、能力や向上心が高い人ほど、自分の能力が正当に評価され、昇進・昇格を果たし、評価に見合った金銭的報酬を得てモチベーションをより高めると考えるのだ。
これはあまりにも当然であり、疑問すら起きないかもしれない。だが、金銭など外的報酬が与えるリスクを示した、内発的動機づけの研究で著名なアメリカの心理学者エドワード・L・デシの実験がある。
デシは、大学生を2つのグループに分け、それぞれに同じパズルを完成させる遊びを促した。両グループ共、パズルで遊ぶ楽しみに興じたが、途中から一つのグループに、課題のパズルを完成させれば報酬を与えることにした。その結果、報酬を期待したグループは、より熱心にパズルに取り組んだ。
しかし、さらに途中でこのグループの報酬を打ち切ると、パズルへの関心を一気に失った。一方、終始報酬なしだったグループは、ずっと一定の熱心さでパズルを楽しみ続けた。
すなわち、純粋な関心や興味など内発的動機づけによる行動も、途中で金銭という外的報酬を加えると内発的動機づけが阻害され、外的報酬に従属してしまうのだ(エドワード・L・デシ著、リチャード・フラスト著、桜井茂男監訳『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』新曜社、1999年)。
よって、仕事の成果に応じた金銭的報酬を与える方法は、短期的には社員のモチベーションを向上させるかもしれない。しかし、仕事が報酬を得るための手段と化し、より高報酬を志向するようになりがちだ。
そして、報酬が伸びず下がろうものなら、仕事への意欲を失う。アメを与えて働かせれば、結局アメを多く与え続けるしかない。これでは、持続可能な働き方にはならない。では、どのように考え直すべきだろうか。