写真:御厨慎一郎
テレビ番組などで大人気の俳句の先生こと夏井いつきさんは、「俳句を始めると人生が楽しくなる」といいます。
「日々起こること、出会うものすべてが『俳句のタネ』になって、人生から『退屈』という言葉や、『暇だ』とか『つまらない』なんて時間は、どこかに吹き飛んでしまうんです」
その言葉に心を動かされた俳句の"ど素人"である編集者が、夏井いつきさんに弟子入りすることになりました。本稿では、俳句を始めるのに必要な「三種の神器」について教えてもらいました。
※本稿は、夏井いつき著『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
俳句のスタートは、まずは形からでOK!
夏:前回は、俳句を始めるのに必要な「三種の神器」についてお話ししました。
K:はい! 「ペン」と「メモ用紙」と、もう一つは、え、えーっと......。
夏:「俳号」だったよね。俳号っていうのは、俳句を作るときの名前のこと。俳句を作る前に、まずは俳号を考えましょう。
K:まさかの、形から入るパターンですか(笑)。
夏:それでいいのよ。だって、本名で俳句を作ってコケたら痛いでしょ。「Kが作りました」「ヘタですね」っていわれたら。
K:確かに......。ショックで立ち直れません。
夏:正岡子規は、とんでもない数の俳号を使い分けていたのよ。学生の頃の回覧雑誌なんて、俳号を変えて、ほとんど自分一人で作っていたんだから。高浜虚子だって、本名は高浜清だしね。
K:はじめて知りました。
夏:だから、コケても傷つかないように、初心者こそ俳号を持ちましょう。それに俳号には、「これは他の誰のものでもない私の俳句ですよ」とマーキングする意味もあるの。
俳号にルールは一切なし! 何でもOK!
夏:それじゃあ、さっそくKさんの俳号を考えてみましょう。
K:えっ、ここでいきなりですか......(汗)?
夏:そう。ここで決めるのよ! Kさんの趣味は何?
K:趣味ですか。うーん......。
夏:私の知り合いには、競馬好きで「テイエムオペラオー」とか、何を思ったのか「鼻毛出て~る」なんてふざけた俳号の人もいましたよ。
K:そ、そんなに自由でいいんですか! 何でもありですね。
夏:何でもOKなの。ルールも一切ありません。「♪」「★」「♥」などの記号やアルファベットを使う人もいるね。
K:じ、自由だ......。
夏:俳句を作って仲間とお互いに披露しあう会を「句会」っていうんだけどね。その句会に参加したときに「あなたの俳号には、どんな意味が込められているんですか?」ってきかれたら、語りたいじゃないですか。まぁ、評判が悪かったら、出世魚のように俳号を変えるっていうのもありだし。構えず、気軽に考えてみてください。
K:途中でどんどん変えていってもいいんですね。
俳人は普段、俳号で呼び合う
夏:さぁ、Kさん、どう?
K:あっ、私、これといった趣味はないのですが、編集者としての仕事が大好きだということに、今、気がつきました。
夏:忠誠心の高い男だね~。それだったら、Kさんが勤めている会社、「PHP」からつけてみようか。「ぴー」っていう音、漢字であるかな?
K:うーん......。たとえば、「認否」「韓非子」......。
夏:「突飛」「神秘」なんかもあるね。
K:神秘の「秘」って、かっこいいですね!
夏:それじゃあ、「秘」でいこうか。「えいち」は......、「英知」なんてどう?
K:合体させると......、「秘英知(ぴーえいち)」!
夏:すごい才能を秘めていそうな俳号だね(笑)。
K:きょ、恐縮です(笑)。
夏:だんだん目が輝いてきたね。では、今日からKさんは秘英知。忠誠心の高い男! 私もこれからは秘英知さんと呼ぶことにしますね。俳人は普段、本名ではなく、俳号で呼び合うので。
K:光栄です(照)。
夏:これで、「ペン」「メモ用紙」、そして「この本」......ではなく(笑)、「俳号」という「三種の神器」がそろいましたね。
K:はい! 簡単にそろえることができました。まさか自分の俳号を持つことになるとは思ってもいませんでした。
【夏井いつき(なつい・いつき)】
俳人。1957年、愛媛県生まれ。中学校国語教諭を経て俳人に。俳句集団「いつき組」組長。創作執筆に加え、句会ライブなど俳句の種まき活動を積極的に行なう。テレビ番組「プレバト!!」(MBS/TBS系)で人気を博す。