体重増加が股関節に与える影響と適切な運動による改善方法について、股関節専門医の宇都宮啓さんによる書籍『股関節の痛みと悩みが消える本』よりご紹介します。
※本稿は、宇都宮啓著『股関節の痛みと悩みが消える本』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
股関節を守るには適切な体重管理を
股関節の軟骨がすり減る原因としては、先天的な特徴的な骨格、加齢、スポーツによる使いすぎ、体重過多があげられます。股関節には通常の歩行時に体重の3~4倍の負荷がかかるといわれています。
たとえば、体重70kgの人なら歩くだけで股関節には210~280kgもの負荷がかかることになり、体重が重ければ重いほど負荷は高くなります。股関節に負担をかけないためには、適切な体重管理が大切です。
しかし、股関節に痛みがあると、どうしても動かすのが億劫になり、運動不足になりがちです。そして運動しなければ、体重も増加してしまうという負のスパイラルに陥ってしまいます。体質的に太りやすい人もいますし、食事療法で体重を減らすにも限界があります。
痛みが取れて運動ができる状況になったら、ダイエットのチャンスといえますが、そこで「運動して痩せなければ」とジム通いを再開して、再び股関節を傷めてしまう患者さんも多いです。せっかく痛みが軽減されたのであれば、悪化させないようにしなければなりません。
体重を落としたいときに、有効なのが有酸素運動です。股関節に負担をかけずにできる、ダイエットに最適な有酸素運動は水中ウォーキングです。水の浮力と抵抗力を利用しながら歩くことで、関節を守りながら無理なく運動することができます。
ジムで運動をするのであれば、股関節への負荷が大きいトレッドミルは避けて、負荷がかかりにくいエアロバイクやクロストレーナーがおすすめです。プールやジムに行かなくても、屋外でのウォーキングは効果的です。路面でも土や芝生の上でも自分が歩きやすい場所で、股関節に負担をかけにくい歩き方を意識しながら、歩くスピードや距離に負担がないように行ってください。
股関節が痛いときの生活の工夫
変形性股関節症が進行すると、「うずいて眠れない」とか「痛くて目が覚めてしまう」という「夜間痛」に悩まされることがあります。そのようなときは、膝の下に枕を入れることをおすすめしています。股関節は屈曲しすぎると痛いので、ある程度股関節と膝を曲げるとラクになります。
また、横向きに寝たとき足が内転すると痛い場合は足の間にちょうどよい硬さの抱き枕を挟むとよいでしょう。仰向けでも横向きでも、四つ足動物に近い姿勢で寝るとラクになるかと思います。
靴の選び方も大事です。「履くだけで痩せるスニーカー」として底が船底型になった靴が流行したとき、股関節が悪くなった人が増えた印象があります。靴底が不安定なため、インナーマッスルが使えていない人が履くと、無理にバランスを取ろうとして股関節に負荷がかかってしまった可能性があります。ヒールが低く、かかとが固定されているもの、かつ適度なクッション性があり、サイズが合った靴を選びましょう。
股関節を深く曲げる動きは、股関節に負担の大きい動作です。和式の生活では床に座ったり立ち上がったりすることが多く、股関節に負担がかかります。できればテーブルと椅子、ベッドを使った洋式の生活に切り替えましょう。
和室にも椅子を一つ置いておくと便利です。室内の雑巾がけや庭の草むしりなどをしゃがんで行うことは避け、アイロンがけや洗濯物を畳む作業なども椅子に座って行いましょう。
貧乏ゆすりに似た「ジグリング」は、筋肉を細かく動かすことで筋肉同士の癒着を防止・改善できる可能性があり、変形性股関節症の保存療法として有効だといわれています。「貧乏ゆすりは行儀が悪い」とされていますが、座った状態で簡単にできますので、テレビを見ながらでも少しずつ行ってみてください。
【宇都宮啓(うつのみや・はじめ)】
股関節鏡視下手術のスペシャリスト。米国におけるバイオメカニクス研究の経験をもとにした、最小侵襲の関節唇修復術を得意とする。人工股関節手術では筋肉を温存して行い、術後にスポーツ復帰が可能。股関節の機能診断とリハビリテーションが最重要と考え実践しており、セラピストからの信頼も厚い。約8割の患者さんは手術を必要とせず、リハビリテーションで満足のいく股関節機能改善が得られている。
2023年2月より開始したYouTubeチャンネル「股関節博士Dr.Jimmy」では股関節に関する情報をわかりやすく解説。これまでに200本以上の動画をアップしている。
YouTubeチャンネル『股関節博士Dr.Jimmy』
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