1. PHPオンライン
  2. くらし
  3. 廃村の記憶は図書館に 映画「サイレントヒル」に映し出される公文書館の魅力

くらし

廃村の記憶は図書館に 映画「サイレントヒル」に映し出される公文書館の魅力

つのだ由美こ(大学図書館司書)

2025年06月23日 公開

映画の中で、ポイントとなるシーンによく登場する図書館。恋愛映画では、本を通じて二人の距離が近づく場所や、デートの場所。サスペンスやアクションでは、司書のアドバイスで事件が解決、ときには本が武器になることも。

そんな図書館や司書が登場する映画のことを、研究者のあいだでは「図書館映画」と呼んでいるそうです。

本稿では図書館映画の1作「サイレントヒル」を題材に、図書館の魅力をつのだ由美こさんに解説して頂きます。

※本稿は、つのだ由美こ著『読書を最高のエンターテインメントに 本が大好きになる図書館の使い方』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。

 

地図から消された町

生まれ育った町、子どものころに通った学校、好きだった映画館...。きっと誰にでも思い出の場所があると思います。
でも久々に行ってみれば、もはや見る影もなく──。

--------------------------------------------------------------------------
「お家に帰るの! サイレントヒルに!」
悪夢にうなされ、夜毎ベッドから抜け出す娘・シャロン。母親のローズが「サイレントヒル」について調べてみると、ウエスト・バージニアにある町だとわかりました。ただし、ゴーストタウンのサイトに載っている廃墟です。

夫・クリストファー(クリス)は町へ行くことに反対しますが、ローズは制止を聞かず、娘とともにサイレントヒルへ。
クリスもすぐに二人の後を追いかけますが、サイレントヒルは地図にも載っていません。途中で人に尋ねながら、ようやく町を封鎖する門までたどり着きます。

ですが、そこにはすでに地元警察が来ていました。ローズの車は見つかりましたが、シャロンと一緒に忽然と消えてしまっていたのです。妻と娘を探そうと必死なクリス。そんな彼の様子を見兼ねたグッチ警部が、一緒にサイレントヒルを捜索してくれました。しかし、クリスの呼びかけも虚しく、ひと気のない建物が広がるばかり。

それでも諦めないクリスでしたが、警部がこれ以上サイレントヒルに関わらないように、と強く忠告してきました。この町は地下火災が原因で廃墟になり、いまも有毒ガスが発生しているからです。

しかしクリスは、警部が何かを隠していると感じます。サイレントヒルがある郡の公文書館に電話をかけ、町に関する警察の記録を見せてほしいと頼みました。

ですが、機密扱いで断られてしまいます。クリスは夜に公文書館へ侵入することに。山積みの古びた箱の中から、ついにサイレントヒルの捜査ファイルを見つけ出しました。入っていたのは30年以上前の写真。そこには意外な人物が...。
--------------------------------------------------------------------------

 

実在する「燃え続ける町」

本作は、コナミの人気ホラーゲーム「サイレントヒル」を元にした作品です。

監督のクリストフ・ガンズ監督が、このゲームの大ファンで、ゲームのプレイ中に映画化の構想が浮かんだのだそうです。
ただ、映画とゲームでは異なる点もあります。映画のほうの舞台は、米ペンシルベニア州のセントラリアという町がモデルになっています。

セントラリアは、かつて無煙炭を産出する炭鉱の町として、100年にわたり繁栄し、2000人以上が住んでいました。しかし1962年、古い炭鉱跡を埋め立てたゴミの集積場で、ゴミを焼却した際に鉱脈へ引火。地下で大規模な火災が起きてしまいます。

延焼を食い止めようとしましたが炎の勢いは収まらず、ついには消火活動を断念しました。ですが、それでも1000人ほどは町に住み続けました。

ところが1981年、少年が庭で遊んでいたときに突然、地面が陥没し、転落してしまう事故が起きました。幸いすぐに助け出されたものの、地下に充満した有毒ガスで危うく命を落とすところです。この事故がきっかけで、連邦政府は住民に補償つきの移住を促し、最終的には拒否する住民に対して強制退去をおこないました。

2002年には町の郵便番号も廃止され、セントラリアに通じる道路も閉鎖。そして町は廃墟に。自然に鎮火するまで、あと250年かかるとも言われています。

 

ゴーストタウンや廃村の記憶を集める

現在も、有毒ガスが道路の亀裂から吹き出しているセントラリアですが、映画の中のローズのように、ネットの情報を見て訪れる人が後を絶ちません。一方、夫のクリスのように、現地の公文書館へ行かなければわからないような情報もあります。

地図から消えた廃村を見つける場合も同じです。約40年前から全国の廃村を1000か所以上訪れて『記憶に残る廃村旅』(実業之日本社)などを執筆した浅原昭生さんも、やはり図書館を活用しています。

たとえば、国会図書館で国土地理院の旧版地形図の写しを取り、いまの地形図と見比べると、集落や道路の消失がよくわかります。また「へき地学校名簿」や「全国学校総覧」を複数年分集め、生徒数の減少の推移を調べ、閉校年を特定します。

廃校のまわりは住民がいなくなっていたり、高齢者しか暮らしていなかったりする場合が多く、廃村の可能性が高いからです。このような方法で、浅原さんは1000か所の廃村をリストアップし、足を運んできました。

ただ、集落の存在はわかり、地形図や『郵便区全図』などの資料を調べつくしても、具体的な場所が見つからないことも。そんなときは、現地の町立図書館などを訪ねて司書に質問し、地元の人とやり取りをすることで、やっと場所を特定できるのです。

このような苦労の結果まとめられた廃村リストは、国立環境研究所と東京大学による里山の蝶の研究にも活用されるほど、貴重なデータになっています。

さらに、廃村をテーマにした有名なホラーゲーム「SIREN」のモデルとなった村を紹介し、案内したのも浅原さんでした。地図から消えても、記憶は残したい。そんな元住民の故郷への思い、集落の歴史をまとめて本を執筆されています。

映画「サイレントヒル」も廃墟になる前は、人々の穏やかな生活がありました。そう考えると、本作は怖いというより、悲しい物語のような気がします。
あの"サイレン"が鳴り響くまでは。

関連記事

アクセスランキングRanking