仕事の依頼が「ざっくり」すぎて困ったことはありませんか?指示が曖昧な「丸投げ」は、引き受ける側の善意や努力によってなんとか維持されているのが現実です。
一般社団法人日本接客アドバイザー協会・名誉顧問の渋谷亜也さんの著書『ヒトもAIも仕事は"引き受け方"が9割』より、丸投げが起こる構造と、渋谷さんの苦い経験から得た「雑務の価値」、そして「自分を守るための受け方」についてお届けします。
※本稿は、渋谷亜也著『ヒトもAIも仕事は"引き受け方"が9割』(インプレス)より一部抜粋・編集したものです。
仕事を丸投げする人
特に具体的な指示をせず、「これお願いします」「これやっといてね」のように仕事をまるっと依頼されることがあると思います。過去に経験やレクチャーがあって、その指示だけで着手/完了できる時はよいですが、経験や情報が足りず、いわゆる「丸投げ」だった場合。みなさんも経験があると思います。
お願いの内容にかかわらず、人に何かを依頼する時、「完成系まで見えていて、それを踏まえてお願いするかどうか」で、依頼のしかた(相手に伝えること)は変わってきます。
たとえば、あなたがご家族から「明日ごみのの日だから、ごみを捨てておいてね」とおねがいされた、と仮定します。普段からごみ捨てをやっていれば、
・翌日の曜日を確認し、ごみの種別を確認する→可燃ごみの日だった
・台所やリビングなど、家の中のごみ箱から回収してまとめる
・翌朝、所定の時間までに、回収場所に出す
このような手順や段取りを把握できます。
ただ、やったことがない/普段からそんなにやっていない場合、
・明日は何のごみのなの日なのか
・家のどこのごみを回収すればよいのか
・どこに、いつまでにごみを出せばよいのか
・そもそも、どれがごみなのかなのか
と、どこから手をつけてよいのかわからない状態で引き受けることになります。
同じように仕事を依頼された時、どれくらいの細かさで、どれくらいの完成度で、どれくらいの時間をかけていいのか、という具体的な要素がなければ、依頼された側は困ってしまいます。
先ほどのごみ捨ての例で言うと、「ごみを捨てておいてね」という依頼事項だけになると、どこのごみか分からないと、その人が認識しているごみしか捨てません。リビングと自分の部屋のごみだけを捨てていたら「台所と洗面所のごみは?」と後から指摘されるでしょう。
そのため、引き受ける側が「作業をする上でのポイント」を相手から引き出すことが重要になります。
経験談その1...当たり前と思われるやつ
私自身の苦い経験なのですが、バックオフィスを担当していた頃、バリバリ動いている営業さんからの依頼案件を引き受けていました。
依頼自体は本当にざっくりしていたけど、そこから「ここはこうやって進めてよいですか」「こういう風にもできますが、どうですか」と、作業だけでなく提案もしながら資料作成や依頼事項を遂行していました。
繁忙期を過ぎ、閑散期になっても、営業さんたちからの依頼はざっくりしたものでした。状況によっては本当に「これやっといて」だけのことりもありました。「繁忙期だから」こちらでできることは巻き取ろう!と思ったのに、その期間で「こちらが自発的に拾って行動する」ということが当たり前になっていて、結果「あの人は言わなくてもやってくれるから楽」と思われ、便利屋さんになっていました。
これはいけない、私自身の負担が増えてしまう……と危機感を覚え、そこから少しずつ、依頼する際のテンプレートを整えました。また、相手とコミュニケーションを取る中で「こうしてもらえると嬉しい」を少しずつ伝えることで、こちらの負担は少しずつ減りました。
「よかれと思ってやったら、それを当たり前と思われる」こと、仕事を引き受ける側の立場にいると、結構な頻度のあるあるだと思います。
経験談その2...いい感じにやっといて
自分の仕事をストレスなく完遂したい!そのために必要事項は事前に聞きたい!と思っても、「いい感じにやっといて」という、言っている側は気持ちが良いかもしれないけど、受ける側には何の情報も得られない言葉が返ってきたり。さらに突っ込んで聞くと「いちいち細かいな」とブツブツ文句を言われることもありました。
「いい感じに」としか言えないのは、依頼者の「完成形に至るまでの【道のりの解像度が低い】から」です。見えていないことは指示はできません。この「道のりの解像度が低い」それ自体で、依頼者を責める意図はありません。完成形は見えていても、そこに向かう過程が現時点でない(考えていない)、という意味で書きました。
次の事例は、私が実際に経験した内容です。年末の書類発送が立て込んでいる時に「今日の集荷に間に合うように、添付したファイルを印刷して郵送してください!」という依頼が来ました。メールで届いたファイルは、Word、Excel、PDFと形式は様々。依頼自体は午前中の早い時間に打診されたので、集荷までには時間的な余裕はありました。それでも、時間に追い立てられるとどうしても焦ってしまうので、早めに着手しました。
【届いたファイルを開いて印刷する】
・PDFはそのままファイルを印刷
・Wordファイルは、ファイルを開いた後の自分の操作で文字が入ってしまう可能性があるため、慎重にPDFに変換してから印刷
・Excelはそのまま印刷したらB5サイズで、他の書類とのサイズが合わない→依頼元に確認して、A4へ拡大して印刷する
このように「印刷するだけ」ではすまないことがいくつも出てきました。都度確認して、なんとか印刷は完了。
【今日の集荷に間に合うように郵送する】
・今日の集荷に間に合うように→普通郵便で送付すると、以前より+1−2日かかるので、「必着日はいつなのか」を確認→明日必着だった
・明日必着=レターパックやゆうパックで送付すると安心(配達完了の確認もできるため)→レターパックで送付することを依頼主へ伝え、郵便局窓口へ出向き発送完了
と、「添付したファイルを印刷して、今日の集荷に間に合うように郵送してください」の中も、掘り下げていくと文字外のことがたくさんありました。
後工程になればなるほど時間的な猶予が少なくなるため、「納期に敏感になる」必要もありますし、ミスも許されない度合いが高まります。ただ、ほとんどの企業では「資料を作る人」は資料を作ることだけに集中するので、そこまで気が回らないことがほとんど。バックオフィス側でそういったところを巻き取って、いろんなところで無理をして期日に間に合わせている現実もあると思います。
性格上、そういった細部の作業が苦手な方もいますし、本当に業務が手一杯で捌いているだけの人もいます。そこを全部巻き取って、納期に間に合わせるように頑張っているバックオフィスのみなさん、えらいです。尊敬します。でも、それを当たり前だと思われないと、悲しくなりますよね。
もちろん業務だから、やるのは当たり前。ただ、「それはそちらの仕事だから」と依頼元から言われると「あなたのためにやっているのではない」とブチギレそうになるのもわかります。あくまで「自分の業務だから、業務範囲のことを、責任を持ってやっているだけ」なのですが、そこを勘違いして「俺だからやってくれる」って思う人もいるんですよね。
なぜか特に役職/肩書きを持っている人は「自分が部長/課長だからやってもらえている」って思うケースもあります。仕事だからやってるんです。あなたが偉いからではありません。
私が大事にしている考え方に「雑務という仕事はない」があります。どんな仕事も、小さな仕事の積み重ねでできあがっているから、雑務と呼んでいい仕事はない。それを、瑣末な仕事だからと軽く扱ってよいわけではないし、それをやっている人を軽く扱っていいわけがない。
小さい仕事を堅実にやり遂げる人がいるから、会社が回っている、と、部下を持つ方には理解してほしいと願います。