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生き方

定年退職後の再就職 ― 「得意技」で再雇用を目指す

布施克彦(NPOコーディネーター)

2013年10月09日 公開 2024年12月16日 更新

《PHP新書『年金に頼らない生き方」』より》

 

得意技の考え方

 

 今まで働いてきたなかで積み上げたものを活かすには、どうしたらいいのか。

 限られた人にしかできない特殊語学ができたり、多くの人がある程度は使える英語でも、飛び抜けた実力を持っていたりすれば、仕事に就きやすいことはだれにでも分かる。そのような特殊能力を持つ人は、大いにそれを売り込んで、仕事を見つけて欲しいと思う。自分の得意技で飯が食えれば、そんな幸せなことはない。

 問題は、世間一般に通用する得意技を持っている人は限られていて、それらを持っていない人が大部分だということだ。得意技を持っていない人は、どうしたらいいのか。

 「英語」だけでなく、ほかにも材料が周囲にころがっているのではないだろうか。特定の組織に何十年も勤めていると、その組織内や業界内の常識が心身に深く染み込みがちだ。そのような限定社会の常態や価値観を、組織を離れた一般世間にも広げてしまう。ましてや、朝から夜遅くまで仕事をして、週末や休暇にまで仕事に追われてきた日本のまじめなサラリーマンには、よくある現象だと思う。

 限定社会の常態と、一般社会の常態との格差、落差を、長年かけ続けてきた色眼鏡をはずして、よく見渡し、見比べてみてはどうだろうか。意外なところに気づくかもしれない。組織内ではだれでも知っていること、あるいはだれでもできることが、世間一般ではそうでもなくて、そのことを材料に、社会に役立つ仕事と結びつけられるかもしれない。これから実社会に出て行く若者や、組織で働いたことのない主婦、あるいは異業種に従事する人や外国人などを対象に、組織内で磨いたものを、何か新たな仕事に結びつけられないだろうか。

 自分では得意技とは思っていないことが、世間一般では得意技だったりするものだ。

 

会社時代の仕事を活かすポイント

 

 昨今は、大企業に勤めていた人たちでも、子会社が整理され、関連企業も求人の門戸を狭めてしまった。似たような専門性を持つ人が、限定的な求人機会に殺到するといった場面も多い。そして今は若い世代の求職者も多く、求人側も若い世代を優先的に採用せざるを得ない。定年後の求職者には、厳しい状況が続いている。

 長年の職場で築いた専門性を武器に、定年後も頑張っている。これらの人たちに共通しているのが、現業に復帰しているということだ。

 若いときは現場で仕事をしても、年功とともに自ら現業の仕事に携わることなく、それらを管理、監督する高みの地位に就くようになる。そしていったんそのような地位に就くと、高みから降りて、再び現業に就くことにはためらいがちとなる。定年後に管理職経験者が再就職活動をするとき、履歴書には管理者としての経験を強調して書くが、それ以前の現場での経験についてはあまり書かない。求める職も、管理者としての地位にこだわる。

 「今さら一兵卒なんて……」と、多くの人は思う。そこで立ち止まってしまえば、仕事はそんなについてこない。そういったプライドを思い切って乗り越えたところに、定年後の仕事が待ち受けているのではないだろうか。プライドというカーテンに覆われているからこそ、視野がおのずと限られる。そのカーテンを取り払えば、目の前に再就職の市場がパッと広がる可能性は大きい。

 今までやってきた仕事だから、業界の構図や地図も頭に入っている。プライドのカーテンの背後に隠れていた部分のことも、元来分かっているはずだ。その部分に求人があるかどうかも知っている。ただ自分の再就職先の対象として、その部分を考えに入れていなかっただけだ。

 カーテンを取り払う思い切りに、ちょっと時間は要るかもしれない。でも取り払ってしまえば、自分の立ち位置から足取り軽く、川上にも川下にも向かってゆける。

 求職側も、最初はちょっと驚くかもしれない。「こんなご経験をお持ちの方に来ていただくなんて……」と、丁重にお断りされるかもしれない。それでも、そこでその職場への熱意を語れば、元々人手を求めている側としては、「この上ない方に来ていただいて……」と、歓迎するだろう。

 もう1つ大事なこと。特に、今まで大組織で働いてきた人に当てはまることだ。新しい職場での仕事は、多分一人で従事し、自己完結的であることが求められるであろう。大組織で培った専門性は、一般的に深いが領域が狭い。たとえばある貿易の専門家といっても、特定商品の輸出ばかりで、輸入などについては未経験。輸出契約の仕事ばかりで、商品の通関や船積みの仕事はいまだやったことがないかもしれない。定年後の新しい職場では、多分貿易の仕事一切を任される可能性がある。

 もし自らの誇る専門性の領域が狭い場合、それを広げて一貫性ある完結的なスキルや知識を磨き、再就職に備える必要がある。一般的に新しい職場では、深い専門性は求められなくても、広い領域のカバーを求められると思う。

 「なんで今さら、オレがこんなことまで……」

 垂れ下がったプライドのカーテンを開ける思い切りは、いくつもの場面で必要になるだろう。

 


<書籍紹介>

年金に頼らない生き方
60歳から20年、月10万稼ぐ方法

布施克彦 著
本体価格760円

定年後の人生設計の仕方、年金だけでは安心できない、どうしたら定年後も稼げるか。その準備方法と、成功事例に学ぶ教えとは?

 

<著者紹介>

布施克彦
(ふせ・かつひこ)

1947年東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。70年4月より総合商社(三菱商事)に勤務、主に鉄鋼貿易業務に携わり、その間、ナイジェリア、ポルトガル、アメリカ、インドなど約15年間にわたる海外勤務を経験。98年より精密機器メーカーに勤務、2002年退社して著述業に。著作活動の一方で、「国際社会貢献センター」(NPO)コーディネーターや、産業能率大学の通信教育を担当するなどの活動を行う。
主な著書に『54歳引退論』『昭和33年』(以上、ちくま新書)、『島国根性を捨ててはいけない』(洋泉社・新書y)、『男なら、ひとり施。』『世界の常識vs日本のことわざ』(以上、PHP新書)、『負け組が勝つ時代』(日経プレミアシリーズ)、『57歳のセカンドハローワーク』(中経出版)、『アフリカに賭ける』(彩流社)など多数ある。

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