[歓喜の経営]熱狂するチームのつくり方
2014年09月30日 公開 2022年07月11日 更新
《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年9・10月号Vol.19[特集]歓喜の経営を生みだす より》
「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、日本のインターネット業界の先頭を走るサイバーエージェント。そのグループ会社として、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したマーケティングなどの事業を行うのが、サイバー・バズだ。
両社で営業チームを率い、サイバーエージェントの西日本エリアマネジャー・局長時代には、メンバーを熱狂の渦に巻き込んで売上金額2倍を達成。「熱狂が巻き起こると、チームから『やらされ感』が完全に消え、メンバー1人ひとりが目標に向かってみずから考え、みずから動き出します」と話す近田哲昌氏に、その熱狂の起こし方を聞いた。
<取材・構成:坂田博史/写真撮影:長谷川博一>
ビジョンに共鳴するとすべてが「自分事」になる
「近田さん、チームの数字、まだ足りないんですか?それなら、私がその分を補いますよ!」
「支社としては、どれくらい数字が足りないんですか?ぼくたちのチームで、その分もやったりましょう!」
私がサイバーエージェント時代にリーダーだったチームで、当時新人だった部下がある月末に言った言葉です。当時のチームの雰囲気を象徴する言葉として強く印象に残っています。
誤解のないように言っておくと、決して目標数字が低くて達成しやすいチームだったわけではありません。ベンチャー企業らしく思い切った目標が立てられていました。それでも各自が目標を達成し、さらにチームや支社の目標を達成することにまで意識が向いたのは、「会社のビジョンの実現に向かって自分が走っている」という感覚を1人ひとりが持っていたからです。
私自身、「21世紀を代表する会社を創る」というサイバーエージェントのビジョンを強く意識しながら仕事をしていました。そのために自分には何ができるかを常に考え、行動していました。
ビジョンというのは、他人が実現してくれるものではありません。自分が、自分たちが、みずからの手で実現するものです。だから、ビジョンに共鳴し、ほんとうにそれを実現したいと心の底から思うと当事者意識が芽生え、それまでの「他人事〈ひとごと〉」が「自分事」になり、仮に厳しい状況に置かれても、前向きにがんばり切れるのではないでしょうか。
営業の真価が問われる月末、メンバーは自分の目標達成のために必死になり、なりふり構わなくなりがちです。ひどい営業チームになると、自分の数字のためには仲間のことなど顧みず、たとえ周りに迷惑をかけても「自分だけが達成できればいい」という考えがはびこって、チーム全体が殺伐とした雰囲気に包まれてしまうことすらあります。そうして何とか達成できそうな見込みが立つと、ついそこで力が抜けてしまうのが一般的でしょう。
しかし、ビジョンがあれば、そうはなりません。冒頭の新人社員のように、次へ、次へと前のめりになります。さらにチームの中で同じビジョンが共有できていれば、仲間との協力も生まれます。当時の私のチームを思い出しても、チーム内はもちろん、社内他部署との協力も十分にできていたように思います。
ただ、競争はありました。私は名古屋を皮切りに、大阪、西日本を任されましたが、常に「東京に負けたくない」という対抗意識を持っていました。
東京には大企業の本社がたくさんありますから、1件あたりの金額や総額では勝ち目がありません。それならば、数では負けない、やり方では負けない、新サービスでは負けないなど、いろいろと工夫することで「一泡吹かせてやろう」とチームで企んだものです。そしてそれが、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンの実現につながると考えていました。
熱狂する原動力が何かと問われれば、私の答えは「ビジョン」です。
上級上司との距離感の近さがモチベーションを上げる
藤田は、自社のサービスということもあって、毎日ブログを書いていました。それを私も読んでいたので、なぜ今、会社はこの事業に注力するのか、なぜこの新しいサービスを始めるのか、など会社の方針を理解したうえで、藤田に質問をしたり、自分たちがやりたいことを説明したりすることができました。
やり方についてアドバイスを受けることはあっても、「やめておけ」と言われたことは一度もありませんでした。
前職の銀行員時代はまったく逆でした。
☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。
<掲載誌紹介>
<読みどころ> 9・10月号の特集は「歓喜の経営を生みだす」
仕事の場が歓喜で沸きかえる。あるいは、歓喜とまではいかなくても、仕事の充実を味わえる。これがどれほど大事なことか。人生において相当の比重を占める仕事の時間を、明日の生活費を稼ぐための単なる「労働(labor)」ではなく、意義ある「仕事(work)」と心得、ひいては「遊び(play)」にまで昇華させることができれば、すばらしい成果を生む組織が誕生するのではないか。
こうした問題意識に立った本特集では、従業員が仕事の上で歓喜を味わえるようにするための考え方と、企業での実践を探った。
そのほか、クロネコヤマトの経営理念とからめて語った瀬戸薫氏の松下幸之助論や、ある僧侶との出会いによって素直な生き方にめざめた男性の自己修養の姿を描いたヒューマンドキュメント「一人一業」なども、ぜひお読みいただきたい。