[歓喜の経営]「ちょっとアホ」実践で活気も業績も蘇る
2014年09月22日 公開 2021年08月10日 更新
《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年9・10月号Vol.19[特集]歓喜の経営を生みだす より》
「ちょっとアホ」というユニークな考え方で、倒産の危機に陥った会社を蘇らせた経営者がいる。若者に高い人気を誇るカジュアルウェアショップ「スピンズ」をはじめ全国に30超の店舗を展開しているヒューマンフォーラムの出路雅明会長だ。「ちょっとアホ」とは、人を食ったような奇抜なネーミングだが、「ほんとうのアホ」までいかない絶妙なところに、社員みずから能動的に仕事を生んでいく意欲を引き出す極意が隠されている。出路会長本人に語ってもらった。
<取材・構成:高野朋美/写真撮影:髙橋章夫>
楽しさが社員の主体性を育む
ぼくが「ちょっとアホ」を実践し始めたのは、今から10年ほど前です。会社を立ち上げて7年たったとき、深刻な業績悪化に見舞われ、20億円の借金を背負ったことがありました。そんな絶体絶命のときに、ぼくの中に芽生えたのが、楽しいか、楽しくないかで仕事を判断する「ちょっとアホ」な考え方。経営のセオリーやトレンドにとらわれない、常識外れのやり方で自分と会社を変えていった結果、V字回復を果たすことができました。
「ちょっとアホ」とは、楽しくないことでも楽しくしてしまう考え方です。たとえば、それまで「中期経営計画発表会」と呼んでいたものを、「やったるで総会」という楽しいネーミングに変え、細かい決算報告などはいっさい行わず、社員たちが「やったるで目標」を発表し合う場にしました。「日本一アホな服屋をめざす」「日本中に『なんじゃこりゃ~』と言わせて度肝を抜く」など。聞いているだけで笑えそうな目標を自由に立て、それを仲間といっしょに楽しみながら達成していきます。
総会だけでなく、経営理念や社員研修にいたるまで、「ちょっとアホ」な考え方を広げていきました。その結果、社員みずからが仕事を生み出していくヒューマンフォーラムに変わったのです。
「アフロの日」を発想する風土
当社には、「アフロの日」というのがあります。その日は、スタッフ全員がアフロヘアのかつらをかぶることにしています。お客さんもアフロヘアで来店してくれたら、商品を2割引きや3割引きにします。
普通のファッションショップは、カッコよさ、カワイさ、オシャレさを極めていきますが、ぼくたちはオシャレさではなくて、アホを極めていこうと。それで、他社との差別化を図ろうと考えたんです。
社員からは、ほかにもいろいろなアイデアが出ました。面白かったのは、店に犬を100匹放そうというアイデア。社員たちからは、「おお、ええな、そらもうみんなビビんで。でもな、犬がお客さん噛んだらどないすんねん、店の中で粗相をする犬もおるで」という声が出るなど、会議は大いに盛り上がりました。
そんななか、1人の社員が「アフロのかつらをかぶったらどうでしょう」と提案したんです。「それいいね」ということで採用となりました。もっとも、来店されるお客さんは、なかなかアフロでは来てくれません。だから、レジ横にアフロのかつらを500円くらいで置いといて、「これを買ってくれれば割引きしますよ」とお勧めするんです。すると、お客さんも「アフロの日」に参加しながら、おトクに買い物できます。マーケティング的に言えば、顧客参加型のビジネス。「ちょっとアホ」を実践し始めてから生まれた企画ですが、いまだに続いていますね。
そのほか、お客さんにも参加してもらえる「ちょっとアホ」な企画を、たくさん実施してきました。「書き初め王決定戦」、ハロウィーン、「ご近所お掃除大作戦」など。お客さんとともに社員が徹底的に楽しみ、そのためにとことん力を出し切る。その積み重ねの中で、「ちょっとアホ」の考え方は、会社の風土として根付いていったと思います。
「村研修」でチームづくりを学ぶ
「ちょっとアホ」を新しく仲間入りする社員に伝えるには、どうするか。最も効果的なのは、社員から社員に口伝えに伝えることです。それを可能にする社風をつくるために、さまざまな社内行事や研修を行なっています。
ヒューマンフォーラムには、「社内4大行事」と言われるものがあります。
☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「傲慢で嫌われた経験が原点に」「『ちょっとアホ』の由来」「『無条件の受容』の経験」「フローを引き起こすには」「書かれた理念は必要か」などの内容が続きます。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)
<掲載誌紹介>
<読みどころ> 9・10月号の特集は「歓喜の経営を生みだす」
仕事の場が歓喜で沸きかえる。あるいは、歓喜とまではいかなくても、仕事の充実を味わえる。これがどれほど大事なことか。人生において相当の比重を占める仕事の時間を、明日の生活費を稼ぐための単なる「労働(labor)」ではなく、意義ある「仕事(work)」と心得、ひいては「遊び(play)」にまで昇華させることができれば、すばらしい成果を生む組織が誕生するのではないか。
こうした問題意識に立った本特集では、従業員が仕事の上で歓喜を味わえるようにするための考え方と、企業での実践を探った。
そのほか、クロネコヤマトの経営理念とからめて語った瀬戸薫氏の松下幸之助論や、ある僧侶との出会いによって素直な生き方にめざめた男性の自己修養の姿を描いたヒューマンドキュメント「一人一業」なども、ぜひお読みいただきたい。