なぜ、 アクティブラーニングか~世界が求める「3つの能力」を育む
2016年07月16日 公開 2021年08月12日 更新
生きる力の中核「思慮深さ」を育むために
私は賛同します。そしてアクティブラーニングは、まさに「思慮深さ」を育むためにきわめて有効な学習法であると考えています。「思慮深さ」は Reflectiveness の訳。そう、「リフレクションシート」の「リフレクション」と語源を同じくする形容詞です(「反省性」と訳す人もいます)。
これは「キー・コンピテンシー」の中核をなす言葉です。
OECD(経済協力開発機構)は、国際化と高度情報化の進行とともに多様性が増した複雑な社会に適合するための能力概念「コンピテンシー」を研究するため、DeSeCo というプロジェクトを1997 年に立ち上げました。DeSeCo とは「Definition and Selection of Competencies =コンピテンシーの定義と選択」です。
DeSeCo は2003 年に研究成果を発表。知識や技能の習得を越え、共に生きるための学力を身に付けて「人生の成功と正常に機能する社会のため」にキー(鍵)となる能力概念を定義しました。加盟国から出された今後どのようなコンピテンシーが重要となるかという意見を基に、教育学・哲学・経済学・人類学など学際的な討議を行い3つのカテゴリーにまとめたもの、それが「キー・コンピテンシー」です。PISA 調査(OECD加盟国を中心に実施される15 歳児の学習到達度調査)の概念枠組みの基本となっているほか、進行する日本の教育改革の柱にもなっています。
図の3つのカテゴリーの核心に「思慮深さ」があります。これを DeSeCo は「思慮深い思考と行為であり、相手の立場に立つこと」と説明しています。変化に応じて、その状況から学び取り、最適解を見いだしていくために不可欠な能力。「メタ認知能力」「内省的な能力」そのものです。
・今、自分はどこにいるのか
・今、自分は何をしているのか、しようとしているのか
・このまま行くとどうなるのか
これらを俯瞰して判断できる能力です。
・経験を振り返ることによって、気づきを得たり、失敗から学んだりする
・それを基に将来の行動を修正し、改善していく
こうした生活の仕方、生き方の源泉でもあります。
未来を生きていく子どもたちにはいろんな能力を身につけてほしいと願っている皆さんの願いを究極的に煮詰めれば、この「思慮深さ」という能力に行き着くのではないでしょうか。
「思慮深さ」とは極めて倫理的な性質を持っているとも考えられます。日本の社会は、戦後の高度経済成長期を経て成熟社会を迎え、教育はもちろんのこと、経済、環境、福祉など多様な課題を抱えています。そんな社会で幸福に生き、社会をより良い方向に変えていくためには、個人はもとより、組織、社会、国際社会、地球、宇宙までをも視野に入れて考えられる資質・能力が必要です。これらは多面的に自己や状況を振り返る能力と捉えることもできます。まさに「思慮深さ」です。
講義型授業とアクティブラーニング型授業、どちらが「思慮深さ」の醸成に効果的か、議論の余地はないと考えます。学習活動のプロセスを通して、いつどこで、どのような振り返り(リフレクション)を組み込んでいくか。そのような時間が保障されているようなアクティブラーニング型授業のデザインが必須です。
学んだことが自分自身にどのような意味があるのか、社会全体に対してどのような価値があるのかを「思慮深く」振り返ることによって得られる学びは、学習者にとってもより意味のあることとして定着していくでしょう。「思慮深い」学びを得るためにも、まずは個人思考から始まり、集団思考を経て再度個人で振り返るというプロセスが、アクティブラーニングをより確実なものにするはずです。