「定年後」は50歳になったその日から始まる
2018年06月05日 公開 2023年01月12日 更新
なぜ定年後になって初めて会社や仲間の大切さに気づくのか
しかし定年後に対して何も興味がないかと言えばそんなことはない。むしろ逆で、話し合いの節々で漠然とした不安や強い関心を感じることがある。
特に定年後を過ごしている先輩の具体的な事例を紹介すると、自分と重ね合わせることができるからだろう、より真剣な眼差しになる。
ただ普段は日常の業務をこなすことで忙しく、また毎月の給与ももらえるので、その関心や不安を先送りにしても不都合は生じない。
そして研修の中で、これから「10年後のありたい自分」に近づくためにどのような点に留意すべきかと議論すると、やはり「健康」と「経済的な安定」を挙げる人が多い。ただ、抽象的な発言に終始していて、行動につながるイメージはない。
彼らや彼女たちの発言から読み取れるのは、会社で長く働いているのが当たり前になっていて、組織を離れることがうまく想像できないということだ。会社勤めによって得ているものを意識できていないと言えばいいかもしれない。
そのため、会社に在籍していた時には不平不満ばかり述べていたのに、退職すると「会社員時代はよかった」と懐古する人が少なくない。
会社に行けば人に会える、若い人とも話ができる、遊び仲間・飲み友達もできる、規則正しい生活になるなど、彼らに聞けばいくらでも会社のメリットを口にする。特に男性社員にこの傾向が強い。男性と伍して仕事中心で働く女性社員も同様である。
研修でのやり取りで感じることは、会社はやはり共同体的な役割を持っているということだ。会社で働くことは仕事をこなすという機能的な面だけにとどまらない。
家族や地域といった従来の共同体の力が弱まっているなかで、会社組織がその役割の一部を補完している。居場所としての効能があるのだ。
しかし、この会社という共同体は家族や地域と違って退職するまでという時限的なものであることが特徴だ。
人は何かを失うまではその存在を自覚できないので、定年後に会社やその仲間の大切さに気づくのである。