自己評価は必ず甘くなると知るべし
これほど社会的に広がりのある問題でなくとも、能力や人間性に関する自己評価の小さな誤りなら、私たちはしょっちゅう犯しています。
自分が評価するほどには他人の自分への評価は高いものではない。その事実に気づかないまま、日々をぼんやり送っている人が多いのです。
「ふつうの人間は、自分の能力に関しては四〇%のインフレで考え、他人の能力に関しては四〇%のデフレで考える」
これは元東京地検特捜部検事で弁護士の堀田力さんの言葉です。数字の妥当性はともかくとしても、的を射た言葉といえましょう。また、名人といわれた落語家の古今亭志ん生の芸談にもこんなのがあります。
「人の噺を聞いて、自分より下手だと思ったら、自分と同じくらい。自分と同じくらいだと思ったら、自分よりうまい。自分よりうまいと思ったら、自分よりずっとうまい」
それくらい自分を見る目は甘いものなのです。それでは、その自己評価の甘さを正しく修正するにはどうしたらいいか。
もっとも大切なのは、謙虚な心を忘れないことでしょう。謙虚さとは自分の未熟さへの自覚が生む、素直でへりくだった態度のことですが、その姿勢を忘れないかぎり、人間は自分の不足部分を補おう、埋めようと努めるものです。
その努力が自己の能力を過信する「愚かさ」から人間を救ってくれると同時に、自分を成長させる助走路ともなってくれるのです。
「自分は未熟者だ」と知るのは愚かな人間にはできない行為です。自分の無知やいたらなさを自覚できる謙虚さというのはそれ自体が知的なふるまいのひとつであり、人生の教養をつちかうのに不可欠な要件でもあるのです。