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生き方

記憶力が衰えても"物忘れ"をしない人

増本康平(神戸大学大学院准教授)

2019年01月24日 公開 2024年12月16日 更新

加齢をカバーする「記憶のコントロール」

覚えることをやめるという話をすると、「それは老いに負けた気がする。記憶力の衰えをなんとかしたい」と言う人も多くいます(特に男性に多いように感じます)。

気持ちはわかりますが、年をとると皮膚にシワが刻まれていくように、記憶力は悪くなっていくのです。

人の発達に関わる心理学領域の大家であるバルテス博士は、人生の満足度(近年では、ウェル・ビーイング〔well-being〕とも呼ばれます)を維持するためのライフマネジメントにおいて、選択(Selection)・最適化(Optimization)・補償(Compensation)の重要性を指摘しています(それぞれの頭文字をとってSOC理論と呼びます)。

バルテス博士はこの理論をわかりやすく説明するため、晩年になっても年齢による衰えを感じさせない演奏を行ったピアニスト、ルービンシュタインのインタビューを取り上げています。彼はピアノ演奏における年齢の影響を次の三つの方法によってマネジメントしていました。

1.演奏のレパートリーを絞り(選択)
2.それらをこれまでより集中的に練習し(最適化)
3.これまでよりも速い手の動きが求められる部分の前の演奏の速さを遅くすることで演奏にコントラストを生みだし、速い動きが求められる部分でのスピードの印象を高める(補償)。

SOC理論は、年齢による衰えに逆らうのではなく、それを受け入れてどう対応するかを考える大きなヒントを与えてくれます。そして記憶の衰えをマネジメントするうえでも、SOC理論を当てはめることができます。

1.覚えておく必要のある重要なことは記憶するのではなく(選択)
2.メモや手帳などの記憶補助ツールによって正確に記録し(最適化)
3.記憶力の低下を補い、物忘れに対処する(補償)

さらに言うと、記憶に頼らず記憶補助ツールを使用することができれば、場合によってはグーグルエフェクトで述べたように今まで以上にたくさんの情報を扱うことも可能になるのです。

 

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