コンセントなしカフェの機会コストは?
ビジネスの観点で機会コストを見てみましょう。
私の自宅近くのカフェが最近改装し、以前より1人席が増えました。テーブルにはコンセントが備えつけられ、ノートパソコンを開く人が増えています。
背景としては「ノマド」的に働く人が増え、外に出ずっぱりの営業マンが顧客訪問の合い間にパソコンで仕事をするなど、1人でカフェを利用する人が増えているからです。
2人席であればひとつのテーブルに2つ席が設けられるところ、すべて1人席にしてしまったら席数は半分に減ってしまいますから、カフェ側が1人席を増やすということは飲食業の「売上は席数に左右される」という鉄則に反しているように見えますが、顧客が来店する目的を考えると、1人席のほうが効率がいいのは明らかなのです。
また、以前はコンセントのあるカフェはそれほどありませんでしたが、最近は標準装備といってもいいほど備え付けられています。
「コンセントなんかつけたら、お客が長く居座って回転率が悪くなる」
「その設備投資の費用はどうするんだ? 見合うだけの客単価の上昇が見込めるのか?」
当初はそんな話がありました。しかし、周囲のカフェが先に導入してしまうと、後れをとったカフェは顧客を奪われ、やがて顧客が足を向けなくなってしまいます。
長居する顧客が、滞在時間のわりに商品を頼まないのは事実です。本来、3回転するはずだった顧客が2回転になるのも事実です。3種類の商品を頼んでくれていたのに、それが2種類になるのも事実です。3が2に減るのはほぼ間違いありません。
しかし、席が埋まらなかったらどうでしょうか。1にもなりません。
店側の本音は、「長く居座られるのは困る」ものでしょう。しかし、まずはとにかく入って座ってもらうことが重要なのです。
飲食店では、回転率を上げたほうがいいのは黄金則です。しかし、コンセントをつけなかったために失った利益=機会コストを考えると、もはやコンセントなしで1人客を入れない選択肢はなくなっていることがわかります。
生鮮食品の宅配で有名なオイシックスでは、買い物カゴから商品を外す「カゴ落ち」を分析しているそうです。利用者が「買いたい」と考えた商品だけでなく、「買わない」と決めた商品を把握することができます。
商品を買わない理由を推測してそれを改善したり、他の商品をすすめたりすることができれば、将来の売上につながります。
ところが、今の売上だけを見ていてもこのような情報はわかりません。会計上の売上にもこれらの情報は含まれていません。つまり機会コストは見つけづらい性質のコストなのです。
そこで、まずはカフェやオイシックスのように、顧客の動きや意向を観察して把握する。
そのうえで、実際に機会コストがいくらぐらいなのかをざっくりと計算してみます。その金額が大きいようであれば、改善のための策を打つようにします。
このように、ファイナンスでは、目に見えないコストにも注目し、将来の施策を考えるうえでの指針とします。コストを見落とすと、人生や会社の大きな意思決定を間違ってしまいます。そのようなことにならないように、コストを把握する視点をしっかり押さえましょう。