本田宗一郎に引退を決意させたエンジニア…「若手の声」こそが企業を変える!
2020年02月25日 公開 2020年02月25日 更新
理想型と実務型の大きな違い
そのフォロワーシップには5つの類型がありますが、ここでは「理想型」について触れます。理想型のフォロワーは、「目先の損得」だけでなく、「自分たちは、どうあるべきか」といった「使命感」で発想できる人でもあります。
実利的、現実的な「妥協策」に落ち着かせようとする「実務型」フォロワーと、「理想型」の大きな違いを明確にしておきましょう。実務型は上司の期待に応えるため、「よりうまくやる方法」、つまり"How"の発想で考えます。しかし、「理想型」は、"How"だけでなく、"What"まで考えます。
「今は、何をすべきなのだろうか」と。1960年代から70年代にかけての本田技研工業でのエピソードです。
1人のエンジニアが、アメリカの論文の中に、「大気汚染が問題になる。政府も対策を検討し始めている」といった文章を見つけます。
エンジニアは、こう思いました。「日本でも大気汚染が深刻になり、子どもたちが、外で遊べなくなってきている。子どもたちに青空の下で遊んでほしいし、我々は環境にやさしい自動車を開発すべきではないか」と。
そこで彼は、会社に提言をし、環境開発のプロジェクトがスタートしたのです。
プロジェクトが進む中、社長の本田宗一郎氏は、こう言ったといいます。
「環境対策は、ビッグスリーと並ぶ千載一遇のチャンス!」と。
しかし、エンジニアたちは、この社長の考えに異論を唱えました。
「環境対策は、会社のためにやっているのではない。社会のためにやっているのだ」と。
1970年、アメリカで制定された「マスキー法」が世界の自動車産業を震撼させます。
1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を1970-1971年型の10分の1以下でないと販売できないといった、常識を超えた規制を強いる法律でした。
"ビッグスリー"側(ゼネラルモーターズ、フォード・モーター、クライスラー)からの反発は激しく、まず不可能だと言われていました。
「今、自分たちが本当にすべきことは何なのか」を考えよう。
しかし、1972年、自動車後進国と言われ、アメリカが見向きもしていなかった日本のメーカー、ホンダの自動車がその厳しい基準をクリアしてしまいます。
これには世界も驚きを隠せませんでした。
しかも、その低公害エンジンを搭載した第1号車はシビックと名付けられ、希薄燃焼によって低燃費も実現して世界的な大ヒットとなりました。
実は、この話には続きがあります。
この一件で、本田宗一郎社長は、自ら、引退を決意したのです。
引退を決めた理由について、本田社長は次のように語りました。
「いつの間にか私の発想は企業本位のものになってしまっていた。若いエンジニアたちがそのことに気づかせてくれた。優秀な社員がどんどん育ってきている。自分は退き、彼らに任せたほうがいい」と。
今なお、美談として語られるエピソードです。
でも、もし、会社に「実務型」の部下しかいなかったら、こうはならなかったでしょう。「より速い自動車」を開発する、といった方向に邁まい進しんしたはずです。そうなると、低公害車の開発に、間違いなく後れをとっていたはずです。
では、どうして、一介のエンジニアが社長よりも"一歩先"を行く発想ができたのでしょう。それは、アメリカの論文をはじめ、良質のインプットをしていたからです。
良いフォロワーになるには、良質のインプットが必要なのです。
職場で粛々と仕事をしているだけでは、気づかなかったでしょう。
ちょっと考えてみてください。あなたが関わる事業は5年後も安泰でしょうか。
もし、安泰でないとしたら、「自分たちは何をするべきなのか」……理想型の人はそんなことを真剣に考えているのです。そして、それができている人が3%、30人に1人、というわけです。先を行く会社の事例やビジネス書にヒントを求めるのも、最初のステップとしてはいいでしょう。
事業環境の変化が激しい時ほど、フォロワーシップの強い人が頭角を現すのは、自然の流れとも言えるでしょう。