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指導のつもりが自慢話に...煙たがられる上司の致命的な思い違い

渋谷昌三(目白大学名誉教授)

2023年01月13日 公開 2024年12月16日 更新

指導のつもりが自慢話に...煙たがられる上司の致命的な思い違い

責任ある立場になると、仕事を円滑にすすめるためにも、部下との信頼関係を深めることが大切です。

目白大学名誉教授の渋谷昌三氏は、「この人についていこう!」と思われるリーダーになるためには、人柄だけではなく、心理法則に基づいた科学的なスキルが必要だと指摘します。

部下との心の距離を近づけるコミュニケーション術について聞きました。

※本稿は、渋谷昌三著『「この人についていこう!」と思われるリーダーになる心理法則』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。

 

さりげない失敗談が距離を縮める

リーダーの中には、自分の過去の体験談を部下に話して指導をしていこうと考える人がいます。しかし、話す体験談の内容によって、部下の受け止める印象はまったく違ってきます。

部下に一番嫌がられるのは、自分の実績や成功談を繰り返し語るリーダーです。部下は、「また、自慢話か。もう、その話は聞き飽きた」と心の中で思いながら、いやいや話を聞いているはずです。

リーダーの側はそれに気づかず、繰り返し自慢話をしてしまうのです。このような話をいくら重ねても、部下には受け入れ態勢ができていないのですから、何の参考にもなりません。

その一方で、自分の苦労話ばかりするリーダーもいます。確かに苦労話の中にも参考になるヒントはあるでしょうが、時代が違っていることもあって、今の若手社員にはあまり参考にならないようです。

部下に対して、上手に自分の体験談を話すリーダーは、そこにさりげなく失敗談を織り込んでいます。会社のエースと見られているような実績抜群のリーダーが、自分の失敗談を部下に話すと、部下のほうは「この人でも、最初は失敗したのか」と急に親近感を覚えるようになります。

このように、自分のことをありのままに話すことを「自己開示」といいます。自己開示は、自分のことを良く見せようとする「自己提示」とは違います。

もともと男性はあまり自己開示をしませんし、ポストが上になればなるほど、立場上、自己開示をしにくくなります。

そんなリーダーが、「実は、君だけに言うんだけど、私もこんな失敗をしたんだ」と言うと、部下のほうは、「こんなことまで自分に話してくれたんだ」と好感を持つようになるのです。

もちろん、いつも失敗談ばかりでは効果はありませんし、誰にでも同じ失敗談を話していては、効果はありません。「ここぞ」というときに、「君だけに」、さりげなく失敗談をうち明けることがポイントといえます。

 

ちょっとしたお願いをしてみる

リーダーは、ときには部下の嫌がる仕事を頼まなければならないこともあります。そんなときの頼み方は難しいものです。

嫌がる仕事を頼むときには、「段階的説得法(フット・イン・ザ・ドア・テクニック)」と呼ばれる方法を使うのも一つの手です。

これは、ドアを開けた瞬間に、ドアに靴の先を差し込まれてしまったら、話を聞き続けざるを得なくなるというものです。心のドアをいったん開かせ、そこから入り込んで、説得を試みるのです。

心理学の調査をするときには、次のようなやり方がよく行われます。

まず初めに、ごく簡単なアンケートをお願いします。それに回答してもらった後で、本格的な調査の依頼をします。なぜかというと、いきなり本格的な調査の依頼をしても受け入れてもらえないことがほとんどだからです。

突然電話をしたり、訪問したりして調査を依頼しても、承諾してくれる人はあまりいません。ある調査では、このようにして直接依頼した場合の承諾率は20%だったのに対して、簡単なアンケートに答えてもらってから依頼をすると、承諾率が53%になりました。

人は、いったん依頼を承諾すると、次の依頼を断りにくくなります。「最初は承諾したのに、今度は断る」という行為に対して、自分に一貫性のなさを感じてしまうからです。そのために、2回目には、断りにくい心理が働くのです。

また、最初に承諾してしまうと、その人との人間関係ができ、断りにくくなるという側面もあります。こうした段階的説得法を仕事の場でも使うことができます。

まず、部下に対して、簡単な仕事を頼んでみます。それが終わったところで、関連する仕事として、次の難しい仕事を頼んでみます。いったんは引き受けているので、次の仕事が難しい内容でも断りにくくなるはずです。

また、「聞くだけでいいから、話を聞いてくれないか」と言って、「聞くだけならいいですよ」とのOKをとりつけたうえで、頼み込んでみるという方法もあります。

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