映画「私立探偵濱マイク」のロケ地となった横浜日劇
伊勢佐木町五丁目裏、京浜急行黄金町駅に近い若葉町の一角には、1952年(昭和27年)に横浜名画座、翌53年に横浜日劇が開館し、「洋画は日劇、邦画は名画座」の謳い文句で親しまれた。
1990年代には横浜名画座が改装されてシネマ・ジャック&ベティとなり、日劇は林海象監督による映画「私立探偵濱マイク」シリーズのロケ地(永瀬正敏演じる主人公の探偵が日劇の2階に事務所を構えている)として使用された。
2005年(平成17年)に経営元の中央興業の解体にともない、二館とも閉館したが、シネマ・ジャック&ベティは同年のうちに運営を引き継いだ会社により営業を再開、2007年(平成19年)からは現在の経営元であるエデュイットジャパンが運営をおこなっている。
「2006年頃から黄金町のまちづくりに参画するようなかたちでアプローチをしていたんです。ちょうど、黄金町の大岡川沿いで横浜市主導のアートを取り入れたまちづくりがはじまっていて、われわれも小規模店舗の一軒を借りてアートスペースを運営していた。
そんなときに前の運営会社からお話をいただき、映画館をにぎやかにして、まちに貢献できればと、シネマ・ジャック&ベティの運営を引き継ぐことになりました」(支配人・梶原俊幸さん)
横浜の映画文化を支えるシネマ・ジャック&ベティ
梶原さんは東京吉祥寺の出身だが、お母様のご実家が戸部にあったため、子どもの頃から横浜にはなじみがあったという。
「伊勢佐木町にはよく買い物につれてこられましたが、関内駅の近くがほとんどで、黄金町まで来たことはありませんでした。あまり近づかないように言われていたのかもしれません(笑)。
映画は好きで、映画館にもよく行きましたが、大学は理数系で、卒業後は教育関係やIT系の仕事をしていましたから、映画館の経営なんてまったくの門外漢。
ただ、映画の舞台にもなった場所に建つ、多くのひとに愛される劇場をこのままつぶしてしまうのは惜しいと思い、どこまでやれるかわからないけれど、とりあえずやってみようという気持ちではじめたんです」
上映作品の選定やプログラムの組み方についてもあれこれ模索しながら決めていった。
「僕らが引き継いだ当初はまだこのあたりは物騒なイメージが強く、実際女性の方から『一人で行っても大丈夫ですか? 』と電話がかかってきたこともありました。
それで女性にも気軽に来てもらえる映画館にしたいと考え、女性客の多い東京の岩波ホールやBunkamuraの上映作品をかけるようにしたんです。それが定着して、いまや平日の日中などはむしろ女性のほうが多いくらいですね」
数々の映画ポスターを手がけたグラフィックデザイナーの小笠原正勝さんを責任編集に迎え、映画雑誌『ジャックと豆の木』を発行するなど、横浜ならではの映画文化の発信にも取り組んでいる。