伊勢佐木町の古書店のいま
1935年(昭和10年)には古書部が創設され、市内の古書店とも協力しながら、有隣堂各店や百貨店の催事スペースなどで古書展を開催するようになった。野毛坂の中ほどでいまも営業をつづける1916年(大正5年)創業の天保堂苅部(かるべ)書店もかつては古書部に所属していた。
草森紳一の随筆集『旅嫌い』(1982年)には、伊勢佐木町周辺の古書店をわたりあるく章があり、天保堂の名前も登場する。ほかに名前が出てくる店で現存するのは、誠和堂と博文堂である。昭和初期にはこの界隈に十六軒もの古書店が存在したという。
草森紳一は「古本は、タイミング1つで買いそこねる。まだあるあると思って、どうせ買う奴はいないとみくびって買わないでいた本で、ようやく決心して、本屋をたずねた時には、売り切れてしまっていたということがしばしばある」(『旅嫌い』)と書いているが、最近では古書店じたい気がつけばなくなっているなどということも少なくない。
伊勢佐木書林、なぎさ書房、田辺書店などがここ数年のうちにつぎつぎ店を閉めた。一方で馬燈書房や雲雀洞(ひばりどう)など目のきく新参も出現している。