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津波に5万冊の本を奪われた釜石の「まちの本屋」…“復活”のその後



2021年03月15日 公開

田口幹人

田口幹人 桑畑書店

東日本大震災の大津波で、岩手県釜石市只越町にあった桑畑書店は、店舗が2階まで浸水、全壊した。

約6年間は大只越町の仮設店舗で営業したのち、平成29年7月24日から震災前の店舗付近である大町の災害公営住宅1階テナントの常設店舗として再スタートした。再建直後は、ライフラインが整っていない状況にもかかわらず、書店に日常を求めて多くのお客さんでにぎわったという。

10年が経ち、これからも"まちの本屋"として本の発信拠点をつづけていきたいと語る、桑畑書店の社長・桑畑真一さんにお話をうかがった。

 

“あの時”、いつも通り配達へ行く準備をしてた

桑畑書店は1935年に創業。只越町にあった店舗は、約200平方メートルの売場と、約65平方メートルのイベントホールを備えた、釜石市では最も大きな書店で、地元のお客様に愛されていたお店だった。

3代目の桑畑さんは、児童書や参考書を中心に品ぞろえを充実させ、学生や子育て世代のお客様が、普段使いの書店として足を運んでいたという。

釜石ゆかりの作家の講演会などイベントを積極的に開催しつつ、イベントホールを地域に開放し、地域コミュニティの場として書店を活用してもらう工夫を重ね、まさに、まちと本と文化の発信拠点となる釜石市のまちの本屋と言えるお店だった。

2011年3月11日、配達に出かける準備をしている中、釜石湾からの大津波に襲われ、従業員4人と妻は共に九死に一生を得た。同じような地震が2、3日続けてあったことで、逃げ遅れた人が多く、被害が大きくなってしまったと当時を振り返る。

7、8メートルを超える波は、桑畑書店の2階の天井にまで達し、在庫していた約5万冊の書籍や什器などはすべて流され、鉄骨がむき出しの状況となっていた。建築会社等のアドバイスで、太い鉄骨だけは使用できる可能性があり、その地での再建を強く思っていた。

あの時点で取り壊す決断をしていたら、費用面を考えるとかなり優遇されていた。しかし、自分が設計から手掛け、大切に育ててきた店舗に対する愛着が強いあの地、あの場所、あの店でという思い入れが、決断を遅らせてしまったという。

今となっては、早く決断していれば、と思うこともあるが、それも仕方のないことだと振り返る。

 

本を通じて“日常”を提供する姿

筆者は、2011年3月11日から数日後、瓦礫に埋もれた被災直後の釜石市只越町を訪れていた。

商店街は津波で流され壊れた家屋、車、ヘドロなどで道路が埋め尽くされていたが、クルマ1台が通れる幅だけが確保されているという状況だった。2階部分に車が突き刺さり、いたるところで鉄骨がむき出しの建物の姿があった。

桑畑書店の前で立ち止まり、かつての営みを想像することもできないほど傷んだその姿を目の当たりにした時の衝撃を今でも覚えている。

その後、仮設店舗にも、そして再建された常設店舗にもうかがい、桑畑書店さんの再建を、一人の客として見てきた。

当初は店頭で会話をすることはなかったが、釜石を中心とした三陸の現状を、店頭から発信しようという桑畑書店さんの想いの詰まった書棚と、地域のまちの本屋として、本を通じた日常を提供し続けている姿が強く印象に残っている。

僕はずっと気になっていた、店舗や在庫商品が流され、甚大な被害を被ったあの状態で、再建に向けて動き出そうと思った"きっかけ"を聞いた。

すると、とにかくお客様がいる限り続けるのだ、最初からそのつもりでいた。終わったことはしょうがない、これからどのようにしたら再建することができるかだけを考えていたと、桑畑氏は振り返った。

後から考えると、無謀だったし、大きな目で見たら無理があったと思うが、とにかくお客様に本を届けるのだ、と熱くなっていたという。

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