芸術家や歴史上の人物たちが残した名言の中には、花にまつわるエピソードがたびたび登場します。
聖樹・巨樹研究家の杉原梨江子氏は「ある花との出会いが転機となったり、生きる指針になったりと、著名な人々がこれほど花を愛し、人生の中で特別な存在としている」と解説します。
日本の芸術家や偉人たちが花に託した、悩んだときや背中を押してほしいときに出合いたい名言をご紹介します。
※本稿は、杉原梨江子著『偉人の花言葉』(説話社)より、一部抜粋・編集したものです。
“秘めたる愛”を彼岸花と重ねて
「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」
川端康成(作家、1899-1972)/『花』より
短編を集めた『化粧の天使達』の中で最も短い、5行の小説「花」の一文。恋に翻弄されている友人に贈りたい言葉です。
花の形と名前とが一致する男性は少ないように思いますから。花の季節がくるたびに、相手はあなたを思い出します。恋が終わればささやかな復讐になり、思いのほか恋が成就したら2人で語り合う良縁の花となるでしょう。
小説に登場するのは曼殊沙華(まんじゅしゃげ)。秋に咲く彼岸花のことです。あぜ道や野原を一面、真っ赤な炎で埋め尽くすように咲く、妖艶な花。花弁が蜘蛛の足のように広がることから、英名は"Spider lily スパイダー・リリー"。
主人公のように、「あら、曼殊沙華をご存じないの?」と名前を尋ねて困らせて、蜘蛛の巣におびき寄せるにはもってこいの花です。
江戸時代の百科事典『和漢三才図絵』にすでに登場し、「深紅の糸を結び合わせたような花」と紹介されています。赤い糸でつながるように願をかけ、彼岸花を贈りましょう。
川端は登場人物の性格や心象風景を表すのに花をよく使いますので、参考に。
『古都』ではスミレを可憐な女性像に。『千羽鶴』では妖艶な未亡人を白牡丹の香りで表現し、青年の恋心を誘います。香りの強い花の名前も、相手の心に残すにはいいと思います。
◎ヒガンバナの花言葉「愛」
別れる直前より恋がうまくいっているうちに、愛する人に、花の名前を添えて花束を。
「春」は必ず訪れると信じて
「時を待つ心は、春を待つ桜の姿といえよう」
松下幸之助(実業家・発明家、1894-1989)/『道をひらく』より
これは、松下幸之助のエッセイ『道をひらく』の一文です。何事を成すにも時があります。「時」。
それは人間の力を超えた、目に見えない大自然の力だと、松下は桜とともに語ります。春が来なければ桜は咲きません。どんなに焦っても、時期が来なければ物事を成就させることはできません。しかし冬が来れば、春はもう近い、と。
桜は日本を象徴する花。古来、春の到来を知らせる神の依代でした。どれほど苦しい状況でも、いつか必ず、満開の桜が咲くと信じ切ることができるかどうか、桜を見上げて、心に問いたい言葉です。ただし、何もせずに待つことではありません。
桜は静かに春を待つ間も休むことなく、芽生えの力を蓄えているのです。物事が進まないときこそ、技術を磨いたり、チャンスに備えて準備をすることです。
松下がよく語っていたのは「やり遂げようという"強い思い"」で臨むこと。「着々と力を蓄える人には、時は必ず来る」ということ。
試練を乗り越え、一代で世界的企業に築き上げた松下だからこそ響く、桜の言葉です。この言葉を胸に、桜の枝を大きな花瓶に飾りましょう。桜の花束は"春を呼ぶ"エールの贈り物に。
◎サクラの花言葉「時を待つ力」
大きな成功に向かって歩き始めた人、忍耐の時を過ごしている人に。