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川端康成「別れる男に花の名を教えて...」偉人たちが自然の中に見出した人生訓

杉原梨江子(聖樹・巨樹研究家、ハーバルセラピスト)

2023年01月29日 公開

 

懸命に今日を生きるすべての人へ

「菫ほどな小さき人に生まれたし」 
夏目漱石(作家、1867-1916)/『一八九七年二月の句』より

処女作『吾輩は猫である』を発表する約8年前、熊本で高校の英語教師をしていたときに詠んだ一句。自分がやがて、著名な作家になることなど知る由もない30歳の頃です。

スミレはひっそりと咲く、紫色や白の可憐な花。首をかしげるように咲く姿から、古来、「謙虚さ」や「控えめな心」を象徴する花です。

当時、東京での生活を捨て松山、熊本へと転々とした漱石は、野に咲くスミレの花を自分と重ね合わせたのかもしれません。

自分も小さな名もなき花だけれど、精いっぱい咲いている。目立たなくてもいい、今ここに生きて、小さくても自分の花を咲かせよう、そんな思いで詠んだのかもしれません。

文豪、夏目漱石の言葉として考えないで、1人の人間のつぶやきとしてとらえると、その真意が伝わってくるように思います。懸命に今日を生きる、無名のすべての人へ、漱石からの言葉の贈り物です。

春を告げる小さな花、クロッカス、スズラン、マーガレットなどと一緒にまとめると優しい花束に。

◎スミレの花言葉「謙虚」
 スミレの花束にエールを込めて、自分のために、大切な友人のために。

 

多くを語らずとも「凛とした輝き」

「花(ユリ)は黙っています。それだのに花はなぜあんなに綺麗なのでしょう?」
牧野富太郎(植物学者、1862-1957)

日本の植物分類学の父、牧野富太郎が82歳のときに書いたエッセイの一文です。

このあとに続いて、「なぜあんなに快く匂っているのでしょう?」と香り豊かな花の代表、ユリへの思いを語ります。「じっと抱きしめてやりたいような思いにかられても、百合の花は黙っています。そしてちっとも変わらぬ清楚な姿でただじっと匂っているのです」。

ユリの花は「純粋」のシンボルです。土の中からすっと立ち、白い花を咲かせる姿は穢れに染まらない"清らかな魂"そのもの。花がお辞儀をするように下を向いて咲く"謙虚"な姿も美しい。

富太郎の言葉は声高に自分をアピールしなくても信頼され、一目置かれる人を思わせます。あなたのまわりにもいるのでは?寡黙なのに、凛とした輝きを放つユリのような人。

誕生日や記念日、お祝いに、敬愛の気持ちを込めて、ユリの花を。カサブランカは香り高く、豪華な花束になりますが、日本に自生する原種のヤマユリやササユリも素敵です。

これらの歴史は長く、『古事記』に縁結びの花として登場しています。あえて意味を語らずとも、花を贈ることで、ご縁を結ぶ力を贈ることになります。

◎ユリの花言葉「清らかな魂」
 尊敬する人に、心の美しい友人に、愛する家族に、ユリの花束を。

 

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