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生き方

「自分はポジティブ」と偽る人ほど、人間関係に行き詰まる理由

山本千儀(日本コミュニケーション心理学協会マスター講師)

2023年01月23日 公開 2024年12月16日 更新

 

「吐」という漢字説明の落とし穴

「吐」という漢字は、「口」と「+」(プラス)「-」(マイナス)の組み合わせでできています。「吐」から「-」を取ると「叶」という文字になる、という説明を聞いたことはありませんか?

「マイナスの発言をしてはいけない」「プラスの言葉だけ口にしているといいことが実現する」といった文脈でしばしば語られています。

けれども、この解釈では逆につらくなる引き金となります。プラスもマイナスもあってこそ「吐」という漢字が形成されます。プラスの言葉を口にするのも大事であり、逆にマイナスの感情があるなら、しっかり認めることも大事です。

マイナスの言葉を吐くのをやめるのではなく、その瞬間に感じたイヤな感情にフタをせず認めること、イヤな気持ちを感じて良いということです。マイナス発言がダメではなく、「私は今こういうことがイヤなんだな」と感じた後に手放すという意味の「吐く」です。

「吐」は+と-の共存。息は吐くから吸えるのです。吸いっぱなしでは過呼吸で苦しくなります。乾電池もプラスとマイナスがあるからこそ、電気が出力されて機械を動かせるわけです。

世の中にプラスだけの乾電池は存在しないですし、仮にあったとしても機能しません。

ImpossibleをI'm possble.に変換できるようにI'm possible.にもImpossibleが隠れているのとも似ていますね。

自分が今イヤな感情を持っているとき、「私、今こう感じている」とその感情をそのまま認めた後、イヤなもののみを吐き出し、手放すほうが健全です。

そのためには「私はこの人の前では吐いても良い! この人なら信頼できる!」という関係性を保てる人の存在がとても重要になります。

 

自己肯定の前に自己否定がある

「子育てで大切なのは自己肯定感を持たせること」
「自己肯定感が高い人はあらゆることで成果を出すことができる」

このように、自己肯定感を持つことは重要だと考えられています。

けれども、特に大人にとって自己肯定感を持とうとする前に、実は"自己否定感"が存在します。別の言い方をすると、まずは自己否定に気づくことが1つのステップになるということです。

こちらもプラスとマイナスの話に通じますが、まず100%自己肯定できている人は存在しません。心理学事典によると、自己否定は「願望や欲望を抑え込み、満足をあきらめるような行為のこと」といった記述がなされています。

人が自己否定するには様々な原因が存在します。大きな理由として、1つは後天的な影響(生育環境の影響)が考えられます。例えば、養育者から罵声を浴びせられたり、「これをしてはいけない」という制約を課され続けたりすることで、自己否定感が生まれやすくなります。

そしてもう1つの大きな理由は、失敗や挫折経験です。就職してから会社のプロジェクトで大きな失敗をしたり、失職する経験をして自己肯定感が下がることもあります。

 

自己否定感は活用できる

自己否定感を持つのは悪いことであり、持ってはいけないようなイメージもあります。しかし、私自身は自己否定感を持っているというコンプレックスを起爆剤にして、なりたい自分を実現してきました。

どういうことかというと、自己否定を否定するのではなく、自己否定感を持っていることをまず肯定します。自己否定は、自分の理想や憧れの裏返しでもあります。自己否定から生まれる理想と憧れが、実は「本来の自分」であったりします。

私自身、家庭環境に大きなコンプレックスを持ち、「自分には幸せな結婚なんてできない」「やりたいことは叶わない」「希望する職業に就けるかどうかわからない」という自己否定と不安を抱えながら生きていた時期があります。

理想や憧れ、本来の自分の居場所と現在の自分との距離が遠過ぎるせいで、自己否定してしまうわけです。

ある時にこの考えのままではいけない、「自分は何を否定しているのか」「本当はどうありたいのか」「自分の居たい場所はどこなのか」と自問自答し、がむしゃらに目的地、正確には本来の自分の居場所に向かって努力しました。自己否定感は私にとって意欲向上や飛躍の源泉でもありました。

あえて自己否定を持ってくださいという話ではなく、繰り返しますが、自己否定から理想の自分、本来の自分を見つけられるということです。

 

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