前提となる3条件
運用にあたり、アメーバの単位としてどの程度の大きさにするのかが重要となります。それには3つの条件があります。
第1の条件は、収入と費用が明確になっていることです。どのアメーバもコストセンターではなく、プロフィットセンターと位置付けるために、必要となる要件と考えられます。
第2の条件は、ビジネスとして完結する単位になっていることです。言い換えると、アメーバがひとつの独立した事業として成り立つ最小限の機能を持っていること、となります。
細かく分けすぎないことで、リーダーが経営者としてのやりがいを感じながら、創意工夫をする余地ができるように意図されています。
第3の条件は、会社全体の目的を遂行できる単位にすることです。京セラでは、受注、納期管理、代金回収という機能をそれぞれアメーバに分けることは可能でも、顧客に対して一貫したサービスを提供するためにあえて一つにまとめているのだそうです。
時間当たり付加価値が重要
「アメーバ経営」の肝となる、「時間当たり採算表」は本書に例が掲載されていますので、ぜひ参照してみて下さい。
製造部門と営業部門のサンプルから、決算上の勘定科目よりも費用が随分細かく分かれていることがうかがえます。
時間当たりの付加価値を最重要指標とおいているので、どのアメーバでも適切な価格で提供すること、生産性を上げていくこと、そして無駄を削減することに注意が向いていきます。日々の仕事を全力で行う仕掛けとしても、優れたものと言えそうです。
稲盛さんは出張の度に、この表の束を持ち歩き、リーダーやメンバーの顔を想像しながら細かく確認されていたそうです。
組織の実態は、驚くほどにこの「時間当たり採算表」の数字に表れたといいます。
生産性の高い組織の共通点
近年出版されている本を見通すと、多くの業界で言われている自律型組織経営の原型とも言える存在が「アメーバ経営」であると感じます。また、生産性の高い組織の最小単位が様々な理論で似ていることも興味深く感じます。
「アメーバ経営」だと10名前後、アマゾンだとピザ2枚がきれいに食べきれる人数と言われる5~8名、フラットで自律的とされるティール組織の代表事例のビュートゾルフでは各チーム12名以下、という単位で構成されています。
業界が全く違っていてもチームの規模が似ているのは、全員が密にコミュニケーションできるという、マネジメント上の普遍的な構造によるものだと思わされます。
経営管理の仕組みは数多くありますが、自律性を重んじるマネジメントに共通しているのは、経営者の育成システムとしても優れている、ということではないでしょうか。
私はフライヤーを創業したころに、10億円以上の資金調達をした先輩経営者に「100万円と10億円の使い方に違いがありますか。あるとすれば何を意識されていますか。」と聞いたことがあります。
その答えは、「変わらない」でした。つまり、投資対効果を意識して堅実に使うという基本的な考え方は規模の大小によらず同じである、と理解しました。
人のマネジメントでいえば、10人前後の組織のマネジメントができれば、それを束ねた組織もマネジメントができて、それを束ねた組織…というように経営者として成長していけるのではないかと思うのです。
著者の本を読むと、その高い使命感と、人を信頼する信念の強さが印象に残ります。時代が移り変わっても、その本質は変わらず、一貫したメッセージを本書から感じます。
偉大な経営者が残した作品がその時と変わらず残っているのは、本という媒体ならではの特長でしょう。不安定で変化の激しい時代だからこそ、よりどころになる普遍的な方法論に触れてみてはいかがでしょうか。