いま「増税」すると、日本はどうなるのか?
2012年06月20日 公開 2023年01月05日 更新
ハゲタカ来襲の予兆
ハゲタカ軍団はまず、ヨーロッパの空を覆い、ギリシアやポルトガル、スペイン、イタリアなどで国債という餌を襲って、死肉をついばんだ。ついでにユーロも暴落させ、ご馳走をたっぷりと食べた。
EUの対応が遅れたので、時間は十分あり、じっくりと中落ちや鶏肋(けいろく)までしゃぶることもできた。その後、中国の空に現れ、おいしいところをつまみ食いして、仲間を呼び集めると、海のかなたに去っていった。
ハゲタカはいま、日本の上空に姿を現し、旋回をはじめた。数はだんだんと増えてきている。彼らの最後の標的は、日本である。崖の上ではいままさに、未必の故意による殺人が行われようとしている。
彼らが来襲する予兆はあった――。
『日本経済新開』の1月29日付電子版に、アメリカのヘッジファンド、へイマン・キャピタル・マネジメントのカイル・バスとのインタビュー記事が掲載された。彼は、アメリカの住宅バブルの崩壊や、EUの債務危機の到来を的中させた、ウォール街の凄腕ファンド・オーナーである。
インタビューのなかで、彼は、「日本の国債バブルの崩壊が、今後18カ月以内に起きる」と明確に予言し、「詳しいことは話せない」が、自分のファンドは「日本の長期金利の上昇と為替の円安に備えたポジションをすでにとっている」と、答えている。
ということは、「ギリシアやユーロのほうはすでに十分儲けたので、手じまいをしつつあり、資金はドルに換えて持っている。次は円と日本国債だ。その準備は終わった」と言っているわけである。おそらく彼は、何らかの確実な情報をつかんでいるのだろう。
それが、IMFの情報なのか、格付け会社による格下げの動きなのか、はっきりとはわからない。しかし、ヨーロッパの危機と同じようなシナリオがどこかでつくられており、その情報をキャッチしているのに違いない。
であるなら、それはおそらく、格付けに関する何らかの情報とウォール街の人とカネの動きであろう。なにしろ、EUの債務危機は、彼が最初に予言したのだから……。
彼はさらに、
「日本国債の金利が1%上がるだけで、10兆円規模の利払い負担が増え、2%の上昇となれば、日本の財政が持続できなくなり、実質的に破綻する」
と、不気味な予言をしている。そして――、
「いまの市場が均衡を保っているのは、きわめて心理的な要素に基づいていると思います。『過去も大丈夫だったから、当面は何とかなるだろう』という心理です。しかし、金利上昇は、ある日突然起きるものです。
ギリシアがそうでした。国債入札の札割れといった深刻なイベントが何も起きなかったのに、唐突に金利が上がりはじめ、一気に欧州危機が訪れました。人々の見方は一瞬にして変わります。日本だけが例外でいられる理由はありません」
こう論じたうえで、彼は、
「国債市場が崩壊すれば金利が急上昇し、預金をしていた一般の人々が最も大きな損失をこうむります。私ができるアドバイスは、円資産をできるだけ手放したほうがいいということです」
と言う。
このアドバイスはおそらく扇動ではなく、本音から出た言葉だろう。一般投資家の資金など、彼らから見たら吹けば飛ぶようなものであり、扇動して動かすほど価値のあるものではない。だから、いまのうちに緊急避難しておくほうが無難だよ、と助言してくれているのだろう。
ということは、タイミングを見て、彼自身が「円売り・日本売りに出る。とばっちりを食わせるのは気の毒だから、できたら避難しておいてほしいね」と言っているわけだ。
インタビューの最後で、彼は、「中央銀行のバンカーや国家を信用するな」「自らの力で考え、生き残っていかなければならない時代が来ている」と述べている。
これは、自分ひとりの知恵と力で自分と家族の命を守ってきた、ユダヤ系の人々の典型的な考え方である。彼もおそらく、そうした人たちの仲間なのであろう。
ちょうど同じ頃、ゴールドマン・サックスのジム・オニールも、「今後2~3年で日本とイタリアの国債利回りは、ほぼ同じ水準になる」とするリポートを発表した。
日本国債の利回りは1%前後で推移しているが、イタリア国債の利回りは2月初め現在で6%前後である。彼は「日本国債が今後、2~3年で 3.5%まで上昇し、その一方でイタリア国債は徐々に金利を下げ、同じ頃に日本国債の金利と並ぶ」と見ているわけだ。