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上司ガチャでハズレを引いた人へ...禅僧が伝えたい「諸行無常」の教え

枡野俊明(禅寺の住職、大学教授、庭園デザイナー)

2023年05月11日 公開

 

上司とうまくいかない人たちへ

会社という組織の中には、必ず上司の存在があります。これそのものは、もう逃れることはできません。上司といえば何となく避けたくなるような存在に感じる人も多いでしょう。しかし、うまく付き合えば仕事をよく教えてくれますから、いかに上手に上司と付き合っていくかが、自分の力を伸ばす大きなポイントとなります。

お互いに客観的に相手を見ながら、目標達成に向かって仕事をしていくこと。余計な感情など入ってこない。そんな関係を築ければいいのですが、やはりそこは人間関係の厄介なところ。どうしてもお互い、好き嫌いの感情が入ってくるものです。

ほんのちょっとした苦手意識が上司と部下との関係を邪魔したりすることになるでしょう。これが酷くなった時、どちらかが組織の中で孤立することになるのです。

お釈迦様の教えの中に「諸行無常(しょぎょうむじょう)」というものがあります。「無常」というのは仏教の根本的な考え方で、世の中のすべてのことは常に移ろいでいるという考え方です。常なるものなど無であると。一つのところに留まっているものなど何もないということです。

会社という組織も同じです。今の上司がこの先、10年も20年もずっと代わらないということはありません。普通の会社であれば、人事異動は数年ごとにあるでしょう。

つまり、目の前にいる苦手な上司も、数年あなたが我慢すれば必ずどこかに移っていくということです。その前に自分のほうが別の部署に異動することもあるかもしれません。いずれにしても、一生付き合うわけではありません。

会社を一歩出たら、もう上司のことなどさっぱり忘れて、自分の楽しい時間の中に身を置けばいいのです。会社帰りに同僚と飲みながら、上司の悪口を言っている人がいます。これは無意味な時間だと思いませんか。せっかく同僚と楽しいお酒を飲んでいるのですから、そこで「ダメな上司」のことを思い出すことはありません。頭の中からすっかり追い出してしまうことです。

人間には自我というものがあります。自我がない人は存在しません。しかし、あまり自我が強過ぎると、必ず衝突することになります。簡単に言えば「けんか」とは「自我」のぶつかり合い、自己主張の押しつけ合いなのです。

この「自我」を少しだけ抑えて、相手の立場に立って考えてみることです。悪いのは上司のほうだと決めつけずに、「本当にそうなのだろうか。もしかしたら、自分のほうにも衝突する原因があるのかもしれない」と考えてみる。

人間関係の中では、一方的にどちらかが悪いということは稀だからです。ほとんどの場合はお互い様で世の中はできています。お釈迦様が教えるのは、この「お互い様」の心なのです。

 

【枡野俊明(ますの・しゅんみょう)】
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授

1953年神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて、「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル日本庭園など。

 

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