新型コロナの感染症法上の位置付けが5類へ移行されたことに伴って、多くの企業がテレワークを継続するか、または出社へ回帰するかの選択を迫られている。テレワークと出社、どちらがより生産性が高い働き方なのか、数多くの議論を呼ぶ問いであるが、企業はどのように判断すれば良いのか。松本順市氏が解説する。
テレワークか、出社か、多くの企業が判断できていない
多くの企業が未だにテレワーク勤務がいいか、出社勤務がいいか決められないでいます。それは単純に生産性を判断すべきデータがないことが原因です。
そもそも最大の問題は、今まで出社勤務していた事務スタッフ職(例えば総務職や経理職など、以降スタッフ職)の生産性を向上させる取り組みをしていなかったことです。
生産性を向上させる取り組みには、現在の生産性を判断できる「生産性指標」が必要になります。もし、このスタッフ職の社員の生産性を、テレワーク勤務する前の時点で生産性指標を用いて判断できるようにしていたら、今頃テレワーク勤務がいいか出社勤務がいいかの結論は出ていました。
この生産性の高さは全て数字で判断しなければなりません。例えば、小売業、飲食・レストラン業は「人時生産性」という生産性指標を見ています。これは粗利益を労働時間で割って算出します。
そのため、店舗間で生産性の違うこともはっきり分かりますし、経営側からすれば生産性を高めるための改善改革に取り組みやすくなります。その行動が功を奏しているかどうかは生産性指標で見ることができます。
昨今の勤務形態における混乱は、スタッフ職社員の生産性が分からないまま、新型コロナウイルスの拡大によりテレワーク勤務を強いられてしまったため起こりました。コロナが5類に移行した今、出社させるべきか、テレワークを継続させても良いかは、生産性指標をきちんと持つ会社なら明快なはずです。
しかし実際は、多くの会社で数字で判断することなく、さまざまな憶測や都合によって、勤務形態による生産性の良し悪しを決めている状況でしょう。
それぞれの勤務体制にデメリットはある
出社するスタッフ職の生産性を妨げるのは、社長や上司自身である可能性だって十分にあります。
スタッフ職の社員が集中して仕事をしている最中に、質問や確認などのために声をかけることによって、集中して行っていた仕事を中断して対応せざるを得ません。
これがテレワーク勤務だったならば、社長や上司からその都度話しかけられることがなく、効率的に業務が進められるかもしれません。
一方で、テレワーク勤務では分からないことがあったとき上司や他の社員に簡単に聞くことができず、仕事が順調にはかどらないケースも想定できます。
出社か、テレワークか、表面上の課題だけ議論しても生産性を改善することにはつながりません。指標が決められていれば、テレワーク勤務がいいのか、それとも出社勤務がいいのか、簡単に判断できるでしょう。
生産性の高いやり方はどんなやり方なのか、それを特定して全ての社員に共有することがもっとも重要です。